週刊現代, 2022.11.30
国連加盟国中最下位の出生率
世界の人口が80億を突破した。国連人口局は、公衆保健と栄養、個人衛生と医学の発展による人間の寿命の増加と、一部の国で高く維持されている出産率のおかげだと説明した。国連によると、2021年ベースの世界平均出生率は2.4人で、このまま行くと、世界人口は2037年には90億人、2080年には100億人に増えるものと推測される。
一方、平均出生率が1.1人で、国連加盟198ヵ国のうち198位を記録している韓国は、すでに2020年から人口自然減少(死亡者数が出生者数を超える状況)段階に突入しており、世界で最も速い速度で人口が崩壊している国に指名されている。
ソウル市東大門区(トンデムンク)のある住宅街で幼稚園を運営する筆者の友人は、目下、不動産仲介士資格証の勉強に熱心だ。今年、彼女の幼稚園に入園したのはたった3人で、「新入生ゼロ」という悪夢が現実に近づいたためだという。
「近くにマンション団地がいくつもあるのに子供が少なすぎる。近くの小学校も新入生が40人もいかなかった。マンション価格が高騰し、家賃に耐えられない若者層が大挙引っ越したためだという話もあるが、根本は韓国の出生率が低すぎるところにある。うちの娘たちでさえ、一人が気楽だとか結婚したくないとかで、恋愛すらしてないみたい」
教育部が発表した「2022年教育基本統計」によると、2021の1年間、韓国全域から188個の幼稚園がなくなった。2020年にはソウルで2番目に人口の多い江西区に位置する小学校1校と中学校1校が廃校になり、現在までソウル市内の4校が廃校を予定しているという。
全国的には、小学校の約30%が統廃合基準に該当するという統計もある。韓国の小学校はおよそ6000校程度とみられているので、今後、数年内に1800校が閉校することになる。大学の場合はさらに深刻で、すでに「桜が咲く順に」廃校しているという声もよく聞こえてくる。
廃校が続いている原因は、言うまでもなく、長年にわたって少子化基調が続き、学齢人口が急速に減少しているためだ。
日本よりさらに深刻な少子化傾向
韓国統計庁によると、2021年の韓国の新生児数は26万500人で、韓国女性の合計出生率は国連の統計よりも低い数字の0.81人だった。さらに今年は、4-6月期が0.75人、7-9月期が0.79人と、2四半期連続で0.7人台に低下し、年間の出生率でも0.7人台を記録することが確実視されている。
同じく深刻な少子化に悩む日本でさえ、合計出生率がおよそ1.3人、2021年の新生児数が81万1千人であるから、韓国の事情は日本よりさらに深刻だ。
他にも人口千人当たりの婚姻件数を示す組婚率は日本が4.1件、韓国は3.8件。平均結婚年齢は日本が男性30.4歳、女性28.6歳であるのに対し、韓国は男性33.4歳、女性31.8歳だ。女性の平均出産年齢も日本が30.9歳、韓国は33.4歳など、すべての関連統計で日本より深刻な状況となっている。
世界で最も低い出生率の向上のために韓国政府は2006年から「少子化予算」を編成し、2021年までに420兆ウォンを超える国庫を投入したが、韓国の少子化は止まるどころか、年々急速に進行している。
日増しに深刻化する雇用不安による若年層の結婚延期、高い住宅価格と教育費による出産忌避、女性の社会進出による養育の負担などが原因と指摘される。
最近発表された韓国統計庁の「2022年社会調査」によると、韓国人の50%は「結婚しなくてもいい」と考えていて、特に結婚適齢期と言える20代30代の60%以上が「結婚しなくてもいい」という考えを持っているそうだ。
韓国の未婚男女が結婚していない主な理由としては、「結婚資金不足」(28.7%)「雇用状態不安」(14.6%)など、経済問題が43.4%だった。
韓国社会は2010年以後、年平均成長率が2〜3%を維持する低成長時代が持続されていて、良質な働き口がますます減る状況が続いている。
無限競争を勝ち抜くために
大企業中心の経済構造のため、雇用市場の90%を担う中小企業は、賃金が大企業の半分程度であり、経営安定性も低く若年層が好む仕事ではない。一握りしかない大企業に就職するために、韓国の若者たちは数多くのスペック(資格やスキル)で武装し、無限競争へと飛び込む。
各種の国家試験のための塾や学院が密集している鷺梁津で誕生した名物料理「カップ飯」(大きな紙コップにご飯やおかずなどを盛り込んだ食べ物)は、就職競争で食事の時間まで節約しようとする若者たちのために作られた発明品だ。
就職競争のために1分1秒を節約しなければならない若者たちの人生計画書には、結婚や恋愛という文字はない。数年間の就活の末に就職に成功し、やっと結婚に至る年齢は、平均で31〜33歳程度になる。
しかし、いざ結婚をしても、出産に至るまでにはまだ関門が残っている。暴騰する住宅価格のため、マイホーム購入は望み薄で、教育費の心配から子供の数は最小限に計画する。
教育熱の高い韓国の大学進学率は70%前半で、50%台の日本や40%台の米国よりはるかに高い。「良い大学を出てこそ良い働き口を得て成功した人生を生きることができる」という信念が強い韓国の親たちは、子供たちの教育に惜しみなく投資する。
韓国統計庁によれば、2021年、「私教育機関」に分類される入試塾、語学塾などに韓国の両親が支出した費用は23兆4千億ウォンと集計された。これを学生1人当たりに換算すると、月平均35万7千ウォン、私教育を受けたことのある学生だけを別に集計してみると、月平均48万5千ウォンにのぼる。
「超」少子化現象の真の原因
ただ、筆者の体感としては、現実は統計よりもはるかに深刻だ。
筆者の周りには私教育費問題で喧嘩が続き、離婚してしまったカップルもいれば、娘の教育のために夫を家に残したまま名門塾が密集する大峙洞に引っ越した母親もいる。2人の娘に高校3年生の1年間、月200万ウォン以上の塾費を投資しながら、2人ともソウルにある大学に入れることができなかった友人もいる。
筆者の弟は毎週土曜日、家から1時間以上も離れた大峙洞塾街で行われる「特講」のために、小学校5年生と中学校1年生の息子を連れて朝早く家を出る。車のトランクには塾を行き来する間、子供たちが使えるように、枕と毛布、そして小さなテーブルなどが備えられている。
大峙洞の塾費は1時間当たり10万ウォンで、月に40万ウォン。さらに平日は家の近くの塾に通わせるため、月に塾費だけで1人当たり70〜80万ウォンがかかるという。
韓国の「超」少子化現象は経済問題に起因する面が大きいが、その裏には、韓国社会の「無限競争システム」があるとも言えるだろう。
幼い頃から親に手を引かれて競争の渦に巻き込まれ、淘汰されないために必死にもがくしかない韓国の若者たちが、結婚や出産という未来に夢を持つことができるだろうか。
深刻な格差を誘発させ、階層間の移動を妨げているこの特異な社会構造の根本的改善がなければ、韓国の未来は、日本とは比べ物にならないほど暗鬱なものになるかもしれない。
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