竹島への訪問―大統領の分別なき行い
2012. 8.11
韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領が、竹島を訪れた。日韓がともに領有権を主張している島だ。
これまで韓国の首相が訪れたことはあったが、大統領の訪問は初めてのことだ。
自ら「最も近い友邦」と呼んだ日本との関係を危うくしたことは、責任ある政治家の行動としては、驚くほかない。
日本政府は強く抗議して、駐韓大使を呼び戻す。日韓の関係が冷えこむのは避けられない。
事態を沈静化させる責任は、まず大統領にある。もともと経済界出身の実務家で、08年の就任直後から「未来志向の韓日関係」を掲げていたはずだ。
両国関係は、竹島問題がくすぶりながらも良好だった。それがこの1年あまりで、急速におかしくなった。元従軍慰安婦の問題がきっかけだ。
韓国の憲法裁判所の決定を受けた昨年末の首脳会談で、李大統領は慰安婦問題を取り上げ、野田首相に解決をせまった。
これに対し首相は「法的に決着ずみ」との立場を伝え、ソウルの日本大使館前に立つ慰安婦記念像の撤去を要求した。
だが今回、大統領の背中を押したのは、こうした懸案というよりも、本人の足元の問題ではなかったか。
来年2月の任期切れを前に、大統領周辺では実兄や側近の逮捕が相次いだ。経済格差の広がりへの不満も強く、政権はすでに力を失っている。
15日の光復節を前に領土への強い姿勢を示す狙いだろうが、韓国民が一時的に沸きたっても、暮らしのプラスになるものではない。もはや、政権の浮揚にもつながるまい。逆に、竹島の領有権問題に決着がついていないことを国際社会に印象づけることにもなろう。
内政が手づまりの時、為政者が国民の目を外にそらそうとすることは歴史に何度も見られた。ナショナリズムをかきたてる領土問題は、格好の材料だ。
だが、そうした紛争のもとを絶つことこそ、指導者の最大の責務である。李大統領は、あるべき姿から正反対に動いたと言わざるをえない。
近隣諸国との懸案を一向に解決できない日本政治の弱さも、放っておけない。どの政党も、これを政局の材料にすることなく、冷静にこの問題にあたるべきである。
東京で韓国のポップスターの公演に数万の日本人が集い、ソウルの繁華街では地元の店員が日本語で観光客を迎える。市民レベルの交流は空前の活況だ。
それを政治が後戻りさせることは、許されない。
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