〈あとがき〉に、本書は「アメリカ史に登場する反知性主義のヒーローたちを追ったもの」とある。「反知性主義」とは、初期ピューリタンの極端な「知性主義」への反動により生まれたアメリカ固有のイデオロギーで、宗教的使命感を帯びた反権威主義のこと。
主役は信仰復興運動(リバイバリズム)を担った巡回伝道者たちだ。素朴な福音メッセージを唱え独立前の全米を席巻した「神の行商人」ホイットフィールド、生涯50万人を回心させ奴隷廃止にも貢献したフィニーや、信仰とビジネスを結びつけた19世紀末のムーディ、そして赤貧から身を起こし「アクロバット説教」によって大統領の友人にまで登りつめた20世紀初頭のサンデーなど。
「日本の反知性主義は単なる反・知性ですが、源流は宗教絡みなんですね」
「はい。5年前のアメリカ学会のシンポジウム・テーマに、率直、素朴、浅薄なアメリカ文化の底流をなす国民精神として選んだのが反知性主義です。出版がたまたま日本版反知性主義の本と重なり、結果的に思わぬ注目を浴びラッキーでした(笑)」
キリスト教社会でアメリカのみに見られる反進化論も反知性主義の産物だが、それは科学に対する反対ではない。連邦政府という「権力」が、家庭教育(子どもに何を、どう教えるか)にまで踏み込んでくることに対する警戒心、嫌悪感なのだ。
リバイバリズムを受け継ぐ反知性主義は「野卑だが民主的」、権力・権威に怯まず向き合う根拠をアメリカ国民に提供した。銃規制反対や中絶反対、オバマ大統領の医療保険改革に対する根強い拒否感もそうだ。
「アメリカ国内で発生してきたさまざまな政治・文化現象が、バラバラなものではなく、実は根底に反知性主義があった?」
1956年、神奈川県生まれ。国際基督教大学卒。国際基督教大学牧師、同大学人文科学科教授等を経て、2012年より同大学学務副学長。
「そうなんです。建国以前から続くきわめてアメリカ的なキリスト教精神です。現状を良しとしないので常に新しいモノを生み出す原動力となりますが、その一方〝正義は我にあり〟という独善に陥りやすい」
本書によれば、「明確に善悪を分ける道徳主義」「生硬で尊大な使命意識」「実験と体験を旨とする行動主義」「世俗的であからさまな実利志向」などが、反知性主義に基づく「アメリカ精神」の特色だという。
「驚くのは、“信仰すれば、この世の成功が手に入る”という単純かつ楽観的な実利主義ですね。巡回伝道者の説教も結局それで、冒頭のレーガン大統領退任スピーチにあるように、最後は必ず“アメリカに神の祝福あれ”」
「ピューリタン流の契約神学です。神と人間はギブ・アンド・テイク。人間が信仰義務を果たせば神は祝福する義務を負い、人間は権利として祝福を要求できる。つまり、宗教と道徳が直結し、神の祝福とこの世の成功が直結する。それがアメリカ流キリスト教ですが、相当ヘンです。私たちは彼らと付き合う時に、その特異性をよく知っておく必要がありますね」
アメリカ研究の必読書の誕生だ。