GSOMIA破棄の韓国が、日本の「敵側」に行きつつある兆候
「ゴーン、ズドドーン!」
まるで天地を分かつような戦車や戦闘機の轟音が、富士山の山麓に響き渡り、砲弾や誘導弾などが花火のように炸裂した。
【現場はパニック!】日本人は知らない、いま韓国でほんとうに起きていること…
8月25日の日曜日、東京から岩屋毅防衛相も駆けつけて、東富士演習場で、「令和元年度富士総合火力演習」が挙行された。陸上自衛隊が毎年行っている最大規模の演習である。私も昨年に続き、スタンドの末席に座って、約2400人の自衛官たちが繰り広げる「雄姿」に見入った。
演習は、約50分の前段と、約70分の後段に分かれていた。前段は榴弾砲、迫撃砲、狙撃銃、誘導弾、機関砲、戦車、ヘリコプター……と、陸上自衛隊の主要装備品が演習。後段は昨年に続いて、島嶼部における統合作戦。すなわち、近隣諸国との島嶼部の攻防戦に見立てた演習だった。
最近の自衛隊は、周知のように、陸・海・空ともに島嶼防衛に力を入れている。昨年3月には、長崎県佐世保基地に、「日本版海兵隊」とも言える水陸機動団が発足した。今後、3000人規模まで拡大するとしている。今年3月には、鹿児島県奄美大島と沖縄県宮古島にも駐屯地を新設した。
そんな中、後段の演習を3部仕立てにして、島嶼部に配置した部隊による阻止、増援部隊による敵部隊の撃破1及び2という演習内容とした。すなわち、敵の攻撃を阻止しようとしたが、一部が突破されて日本の島嶼部を占領された。それに対して統合的に反撃し、最後は敵を殲滅するというシナリオだ。
眼前では、まるで映画の戦場シーンのように、次から次へと繰り出す自衛隊の最新兵器がうなりを上げていた。どんな映画も及ばない「本物の迫力」だ。この島嶼防衛演習に使用された主要な装備品は、以下の通りだった。
F-2戦闘機、12式地対艦誘導弾(12SSM)、C-2輸送機、96式装輪装甲車(WAPC)、火力戦闘指揮統制システム(FCCS)、地上レーダー装置1号、UAV、84mm無反動砲(84RR)、06式小銃擲弾、12.7mm重機関銃(HMG)、観測ヘリコプター(OH-6)、多用途ヘリコプター(UH-60)、空挺部隊自動索降下、偵察用オートバイ、99式自走155mm自走榴弾砲(99HSP)、90式戦車(90TK)、92式地雷原処理車(MBRS)、多連装ロケットシステム(MLRS)、10式戦車(10TK)、
ネットワーク電子戦システム(NEWS)、03式中距離地対空誘導弾(中SAM)、16式機動戦闘車(16MCV)、19式装輪155mm自走榴弾砲、96式多目的誘導弾システム(MPMS)、中距離多目的誘導弾(中多)、120mm迫撃砲RT(120M)、携帯対戦車弾(LAM)、40mm自動擲弾銃(40AGG)、水陸両用車(AAV7)、対戦車ヘリコプター(AH-1S)、大型輸送ヘリコプター(CH-47)、高機動車(HMMV)、87式偵察警戒車(RCV)、155mm榴弾砲(FH-70)、89式装甲戦闘車(FV)、87式自走高射機関砲(87AW)、81mm迫撃砲L16(81M)……。
重ねて言うが、私は昨年もこの会場で、同様の島嶼防衛演習を見た。自衛隊はただ「敵」と称しているが、この演習は尖閣諸島防衛を想定しているものと思える。すなわち「敵」とは、中国人民解放軍のことだ。
だが今年は、「異変」が起こった。陸上自衛隊がこの大規模演習を行っている真っ最中に、島嶼防衛と関係が深いニュースが、演習場に飛び込んで来たのだ。
それは、韓国海軍が2日間に及ぶ「東海領土守護訓練」を始めたというものだった。「東海」とは日本海のことで、つまりは「竹島(韓国名は独島)防衛訓練」である。図らずも日韓が同日に、それぞれの島嶼防衛演習を行ったのだ。
現在、竹島を実効支配している韓国側は百パーセント、日本を想定した軍事訓練である。しかも、イージス艦まで投入し、ヘリコプターに乗った海軍兵士が竹島に上陸する本格的な訓練である。
そのことに想いを馳せながら、壮絶な演習を目の当たりにして、私はふと思った。今年も一応、中国を「仮想敵」に見立てた尖閣諸島防衛の演習を行っているように見えながら、実際には同時に、近未来の「竹島奪還演習」にもなっているのではないか。
日本国憲法第9条に照らして、自衛隊は「攻撃的軍隊」ではなく、「自国を防衛するための部隊」(Self‐Defense Forces)である。だが、日本古来の領土である島根県の竹島が、韓国に不当に占拠されていると日本政府は主張しているのだから、「竹島奪還オペレーション」は、十分に「防衛のための反撃行為」たりえるのだ。
この日の演習で言うなら、後段最初の「島嶼部に配置した部隊による阻止」を省略し、「島嶼全体を敵に占領されてしまった」として、反撃から始めればよいだけのことだ。
昨年、この東富士演習場で同様の演習を見た時には、尖閣防衛のための演習としか思わなかった。ところが周知のように、日本から見ていると、ここ最近は韓国が、急速に「こっちの国」から「あっちの国」へとシフトしているように映る。
すなわち、従来型の「日米韓vs.中ロ朝」の構図から、「日米vs.韓中ロ朝」の構図へと、東アジアの地政学がパラダイムシフトを起こしつつあるのではないかということだ。8月23日に韓国政府が日本政府に突きつけた日韓GSOMIA(軍事情報包括保護協定)の破棄は、そうした流れの引き金を引いたようなものだ。
私は高位の防衛関係者に、防衛省・自衛隊から見た「韓国観」について、ホンネの話を聞いた。以下は、一問一答である。
――GSOMIAの破棄を通告された現在、防衛省・自衛隊にとって、韓国は「味方」という認識なのか、それとも「敵」という認識なのか?
「現時点において、日本も韓国も、同じアメリカの軍事同盟国だ。アメリカ軍は韓国軍とともに朝鮮人民軍(北朝鮮軍)に対峙し、自衛隊とともに人民解放軍(中国軍)に対峙している。その意味では、われわれにとって韓国軍は味方だ。
だが韓国軍は、昨年9月に旭日旗をつけた海上自衛隊艦船の韓国入国を拒否した。続いて昨年12月には、韓国海軍が自衛隊哨戒機に対してレーダーを照射した。そして今回のGSOMIA破棄だ。この『3点セット』を見ると、韓国軍が行っていることは、まさに『敵対行為』だ」
――他にも、軍事的に見て韓国が日本の「敵国」になりつつあるという兆候はあるか?
「韓国軍に対する『疑惑』は他にもある。北朝鮮(朝鮮中央通信)は8月11日、金正恩委員長が10日に発射場を視察し、『新兵器』の発射実験に成功、『新兵器』を完成させたと発表した。5月4日に初めて発射実験を行って以降、3ヵ月あまりの発射実験で『新兵器』を完成させたことになる。
この『新兵器』とは、新型の戦術地対地弾道ミサイルのことだが、何と韓国の最新式の短距離弾道ミサイル『玄武2号』と瓜二つなのだ。
これはいったい、どういうことか? 考えられるのは、北朝鮮が韓国にサイバーテロを仕掛けて設計図などを盗み出したか、韓国が北朝鮮にこっそり『情報提供』したかだ。われわれは、後者の可能性も十分あると踏んでいる。
すなわち文在寅政権は、将来的に南北の共同軍のようなものを想定していて、その第一歩として、最新ミサイル情報を北朝鮮に提供したということだ。そしてその構想の先にあるのは、南北共通の敵が日本だということだ。
もう一つの『疑惑』は、韓国の国防予算の急増ぶりだ。韓国は日本の3分の1の経済規模しかなく、経済不振にあえいでいるのに、もしかしたら来年の国防予算が、日本を追い抜くかもしれないのだ。文政権は北朝鮮との平和共存を標榜しているのに、なぜそれほど莫大な国防予算が必要なのか。
こちらも、考えられることは一つしかない。すなわち、韓国の仮想敵国は北朝鮮ではなく日本だということだ。そのような韓国に対して、日本としてもいつまでも『味方』と考えるのは、そろそろ改めるべきではないか」
――それでは、今回の日韓GSOMIA破棄も、今後は日本を仮想敵国に見立てていくという意味なのか?
「そう考えておくべきだろう。防衛省・自衛隊では、韓国がGSOMIAを破棄してくると考えている者は、ほぼ皆無だっただけに、衝撃が走った。同様にペンタゴン(米国防総省)も、ある意味で日本以上に衝撃を受けている」
――7月23日に着任したマーク・エスパー新米国防長官は、8月初旬にアジアの同盟国・友好国を歴訪しているが、その時にGSOMIA破棄の可能性についての言及はなかったのか?
「エスパー新国防長官は、8月7日に防衛省で岩屋防衛相と会談した際、はっきり言った。
『米日韓のGSOMIAは、3ヵ国を結ぶ重要な支柱だ。それは短期的には北朝鮮対策として存在しており、中長期的には中国に対する対策として存在している。そのため、私はこれからソウルへ行って、GSOMIAを破棄しないよう韓国を強く説得する』
こうしたことから、韓国は日本を裏切ったと同時に、同盟国であるアメリカをも裏切ったことになるのだ。この代償は、アメリカがきっちりと韓国に払わせるはずだ」
――過去3年にわたって、日韓のGSOMIAは、実際どのように機能してきたのか?
「2016年11月に発効して以降、適用したのは現在まで計29件だ。2016年が1件、2017年が19件、2018年が2件、2019年が7件。その多くが、北朝鮮が発射したミサイルに関するものだった。その間のミサイル発射は、2016年が0回、2017年が14回、2018年が0回、2019年が9回だ」
――北朝鮮のミサイル発射に関して、具体的にはどのように機能したのか?
「北朝鮮国内でのミサイル発射の兆候は、アメリカが担当する。発射した様子は韓国が担当する。着弾した様子は日本が担当する。このような形で、3ヵ国の連携が取れていた。3ヵ国の情報を照合することで、北朝鮮のミサイル発射の詳細が掴めたのだ」
――GSOMIAの破棄は、日韓どちらの国にとって、より損失が大きいか?
「実質的な損失としては、韓国のほうがはるかに大きいだろう。画像情報と電波情報の両面においてだ。
ます画像情報に関しては、偵察衛星から撮っているが、日本は光学2基、レーダー5基の計7基を運用している。将来的には、光学4基、レーダー4基(1基は旧型のため任務終了)、中継2基の計10基態勢にする。これに対して韓国は現在、1基も保有していない。
電波情報に関して日本は、北は稚内から南は与那国島まで、自衛隊の沿岸警備隊が、詳細に収集している。電波情報というのは、各地で収集したものを組み合わせることによって、ミサイルの発射地点と方向、距離を特定していくわけだ。日本は横に細長い国土なので、有用な収集場所をいくつも置いて、分析精度を高めている。
ところが韓国は、北朝鮮から近すぎて複数地点からの照合に適さないため、ミサイルの方向性しか特定することができない。そのため正直言って、日本から韓国に提供する情報の方が多かった」
――そもそも日韓GSOMIAは、日本の側から韓国側に要請して締結した経緯があるが、日本は何を求めていたのか?
「当初は、ヒューミント(人的)情報が韓国から日本にもたらされることを期待していた。毎年1000人を超える脱北者が、北朝鮮から韓国に亡命しているからだ。
亡命者がもたらす軍事情報は玉石混交だが、中には大変貴重なものもある。純粋な北朝鮮の軍事情報以外にも、例えば日本人拉致被害者に関する情報を持っている亡命者がいるかもしれないと考えた。実際は、いまのところ拉致問題に関するヒューミント情報はもたらされていないが」
――8月23日に韓国が、正式に日本に対してGSOMIA破棄を通達したことで、11月22日に失効することになる。今後、軍事的にどのような影響が出てくることが見込まれるか?
「失効は3ヵ月後だが、すでに事実上は失効したに等しい。8月末に韓国軍の幹部候補生が訪日して、防衛省・自衛隊と交流する予定だったが、この事業も取りやめになった。日韓は軍事面においても『冷戦状態』になっていく可能性がある。
米韓の今後の軍事的関係も心配だ。韓国はおそらく、イランを包囲する『有志連合』に韓国軍が参加すれば、日韓GSOMIAの破棄は、アメリカがお目こぼししてくれると踏んでいるのだろう。
だがトランプ大統領は、『韓国がヤル気ないのなら、在韓米軍を撤退もしくは縮小させる』と言い出すかもしれない。そうなったら自衛隊の負担は甚大なものになる。とにかく破棄の影響は、今後多方面で出てくるに違いない」
――文在寅政権について、いま何を思うか?
「文在寅政権内でGSOMIAの担当者である鄭景斗(チョン・ギョンド)国防長官のことが、残念でならない。
彼は、自衛隊が育てたと言っても過言ではない軍人だ。韓国空軍のパイロット出身で、1994年8月から1995年7月まで、航空自衛隊幹部学校に留学し、指揮幕僚課程(CSC)の委託研修生だった。続いて、2004年1月から2005年4月までは、航空自衛隊幹部学校の高級課程(AWC)の委託研修生だった。留学時代にお目にかかったことがあるが、日米韓3ヵ国の軍事的連携こそが、東アジアの平和と安定の礎であるという信念の持ち主だ。決して『反日軍人』ではない。
実際、今回のGSOMIA破棄の問題に関して、鄭国防長官は最後まで反対したと聞いている。国家安全保障会議(NSC)が破棄を決めた前日の21日にも、わざわざ『(GSOMIAの)戦略的価値は十分あると思う』と発言し、流れを変えようとしていた。
だがあのような逸材も、『反日』を貫く文在寅政権内にあっては『宝の持ち腐れ』ということだ」
以上である。
最後の発言に関連するが、もう一人、文政権内で「宝の持ち腐れ」になってしまっているキーパーソンがいる。それは、趙世暎(チョ・セヨン)第一外務次官である。
1961年生まれの趙次官は、1990年代以降の日韓関係の「韓国側生き証人」とも言える人物だ。韓国外交部で東京の韓国大使館勤務が長く、1993年の河野談話、1995年の村山談話、1998年の日本文化開放から、2012年の日韓GSOMIA交渉まで、一貫して担当してきた。金泳三大統領や金大中大統領など、歴代大統領の日本語通訳も務めてきた。
私は約20年前からお付き合いしてきたが、「韓日両国は友好親善によって発展していく」という理想に燃えた外交官である。韓国の公務員にありがちな(日本も同様かもしれないが)私利私欲や猟官運動とは無縁の存在で、「孤高のインテリ」といった雰囲気の、穏やかで尊敬できるお人柄だ。
そんな趙氏は、2012年に東北アジア局長を務めていた時、まさに日本とのGSOMIA交渉に関して韓国国会で追求されて、すっぱりと外交部を辞職した。対立が止まない日韓と、政争が止まない韓国政界の狭間に立ち続け、疲れ果ててしまったのだ。
その後は、コネを使って有力財団などに天下ることもなく、釜山にある私立の東西大学特任教授を務める傍ら、「私の役目と思って遺します」と言って、2015年11月、『日韓外交史』という名著を、平凡社新書から出した。韓国でも『韓日関係50年』という書名で出した。このコラムの書評で推薦図書として紹介したら、ご本人も喜んでいた。
ところが、そんな退役外交官を再び担ぎ出したのが、文在寅政権だった。昨年9月、国立外交院長に据え、今年5月23日に、第一外務次官に抜擢したのだ。
私は韓国のユーチューブで、趙新第一次官が外交部幹部たちを集めて行った就任挨拶の映像を見たが、淡々と抱負を述べていた。それは、前述の鄭国防長官の最近の表情を髣髴させるものだった。
その後、趙第一次官の動静を注視してきたが、つい最近、韓国のテレビニュースでのインタビューでは、相当疲弊している様子だった。
これは勝手な想像だが、文在寅政権は、八方塞がりになった対日外交を打開すべく、「対日外交のエース」を抜擢したことになっている。ところが、実際に趙第一次官に求めているのは、「趙次官に献策してもらうこと」ではなくて、「青瓦台(韓国大統領府)の命令を日本に押し付ける役割」なのである。
そのため趙次官は、水と油の日韓を調整し打開するどころが、前門の虎と後門の狼に挟まれて疲弊していくという構図である。鄭国防長官にも趙第一次官にも、「知日派の悲劇」が襲っているように思えてならない。
――「着弾!」「敵殲滅!」「様々な新たな脅威から国民の平和な暮らしを守ります!」
東富士演習場に設定された巨大なスピーカーから、次々に自衛隊員の雄々しいナレーションが響き渡る。
眼前に繰り広げられている光景が、日韓の間で行われることがないように――そんなことを祈りたい気持ちになってきた。
近藤 大介
最終更新:8/27(火) 6:01
現代ビジネス
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