またまた基金設立案〜韓国と仲良くするのはホンマに難しいけど〜【怒れるガバナンス】
作家・江上 剛
2020.1.5
私は以前、このコラムで、韓国人の本音ということで、韓国取材で出会った人たちの慰安婦問題や徴用工問題についての考えを紹介した。
その中で、セヌリ党(保守系)国会議員の発言を紹介した。
彼は徴用工問題について「(日韓請求権協定を結んだ)1965年に済んだというのは基本的には共感します。ただ、法的には終わったとは思いますが、国民の気持ちは終わっていません。創意的な努力が必要です。
韓国政府も協力した共同基金などが考えられます。政府は被害者の要求を無視したのだから、協力するべきです」と発言した。
この中で注目すべきことは、彼も「徴用工問題は65年に済んだ」と発言していることだ。
◆切りがない
もちろん彼は、法的には終わったが、国民の気持ちは終わっていないと断っている。しかし、そんなことを言えば、切りがない。国民の感情は終わりようがないからだ。
例えば、日本に原爆を落としたり、東京など大都市に無差別空襲をしたりして、無辜(むこ)の日本人を大量虐殺した米国人を許せないと思っている人は、日本人の中にもいるはずだ。
しかし、法的に終わっているために、悲しみはいつまでも癒えることはないが、国民の感情は終わらせているのだ。
ところが、韓国はいつまでも国民の感情を終わらせない。日本からは、終わらせないようにしているとさえ見える。
セヌリ党議員は、国民の感情を終わらせるために「韓国政府も協力した共同基金」を提案した。
10月18日付の日本経済新聞に韓国の南官杓(ナムグァンピョ)駐日大使のインタビューが掲載されていた。南氏もインタビュー中で、同様の提案をしている。
記事は「南大使は『解決できるのなら制限を設けず話し合いたい(中略)』と語った。日韓企業が自発的に資金を出し合い原告と和解するとする6月の韓国政府の案は、日本政府が拒否した。南氏は同案にこだわらず、韓国政府の関与も排除しない考えを示した。(中略)韓国政府も資金を拠出する案に含みを持たせた」と記している。
◆もう、うんざりだ
この記事を読んだ時の私の気持ちは「もういい加減にしてくれよ」だ。また問題解決のための基金をつくるのか。何回同じことを繰り返すのか。もう、うんざりだと思ったからだ。
1995年の村山内閣の時、日本は慰安婦問題の解決へ「女性のためのアジア平和国民基金」を設立し、民間から約6億円の資金を集め、元慰安婦の方々に補償した。では、その結果、慰安婦問題は解決に向かったかといえば、全くそうではなかった。
補償を受けた何人かの元慰安婦の方々は、韓国内で批判にさらされ、つらい思いをされたという。
そして、その基金は2007年に役割を終え、解散した。基金が民間募金だったことが韓国には不満であり、日本が本気で謝っていないということだったようだ。
続いて15年。安倍内閣で慰安婦問題の日韓合意が成立した。岸田文雄外相が、韓国の尹炳世(ユンビョンセ)外相と力強く握手をするシーンが大きく報道された。
日韓両国がぎりぎりの譲歩をして、長年の問題に決着をつけ、未来に向かって歩こうとしている姿に、日本国民は素直に喜んだ。米国や国際社会もこの合意を評価した。
これで、慰安婦問題の最終的かつ不可逆的解決が図られた。日本は、民間ではなく、政府が10億円拠出し、財団(和解・癒やし財団)をつくり、元慰安婦の方々に補償することになった。
安倍晋三首相も元慰安婦の方々に謝罪のメッセージを送った。ようやく決着した。もはや韓国がゴールポストを動かすことはないだろうと思われた。
◆西大門刑務所歴史館
しかし、私は一抹の不安を抱いていた。それは、韓国の西大門刑務所歴史館を見学した時のことを思い出したからだ。
その場所は、日本が韓国を植民地統治していた頃、韓国の独立運動家らを投獄した刑務所といわれる。
そこには、日本人が韓国人を虐待する様子などがジオラマ展示され、子どもたちは学校の授業として見学しなければならない。
私が見学した時も、刑務所で虐待死したという人々の写真が展示された部屋で、多くの子どもたちが車座になって、先生の話に聞き入っていた。その部屋には元慰安婦の人の音声も流れていた。
私は韓国語が分からないので、先生がどんな話をしているか、想像するしかないが、日本がいかに残虐であったかの説明をしていたのだろう。
これは、韓国からすれば歴史教育だが、日本からすれば反日教育ということになる。こうして幼い子どもたちの柔らかな脳に、日本への恨みが刻みつけられていくのだ。
このような教育が行われていることの是非は言わないが、これでは国民の(反日)感情は終わることはないだろうと思った。日本人は、良い悪いは別にして、恨みを「水に流そう」とするが、韓国はそうではない。
◆対話が成立しない
やはり、私の不安は的中した。朴槿恵(パククネ)大統領に代わって文在寅(ムンジェイン)大統領が就任すると、彼は慰安婦問題の日韓合意を破棄もしないし、再交渉もしないとしながらも、勝手に財団を解散してしまった。
ソウルの日本大使館前の慰安婦像は撤去されないどころか、韓国国内や海外で慰安婦像が増え続けている。
日本が拠出した10億円のうち、約半分が使われたというが、日本は財団の解散を認めていないので、残額は今も宙に浮いたままのようだ。
資金は日本国民の税金だが、どのように決着をつけるのだろうか。確かなことは分からない。
南氏はインタビューで「解決へ制限なく対話」と発言している。これはよいことだ。しかし、対話するためには同じ土俵に立たないといけない。
そのためには、韓国が実質的に反故(ほご)にしている慰安婦問題の日韓合意や日韓請求権協定の原点に戻る必要がある。その上で、制限なく対話することだ。全く違う立ち位置では対話は成立しない。
◆日本国民の感情を無視
ところが、さらに日韓関係を刺激するニュースが入ってきた。
来日した文喜相(ムンヒサン)韓国国会議長が11月5日、早稲田大学で講演し、韓国最高裁が日本企業に賠償を命じた元徴用工訴訟に関し、日韓両国の企業と国民から自発的な寄付を募って基金をつくり、原告に「慰謝料」を払う案を提案した。
この基金は、韓国が勝手に解散した慰安婦問題の「和解・癒やし財団」の残金(約5億6000万円)も財源にするという。こんなところで、財団の残りのカネを使うのか。何をか言わんやだ。
文氏は今年2月、天皇陛下について「戦争犯罪の主犯の息子」「慰安婦問題解決には天皇の謝罪が必要」と発言し、日本国民の気持ちを傷付けた人物だ。
この文氏は、知日派といわれていたように記憶しているが、一体どうしてしまったのだろうか。文在寅政権の要人たちは、あまりにも日本国民の感情を無視しているのではないだろうか。
私は取材を通じて韓国にも友人がいる。言い訳するわけではないが、決して嫌韓派ではない。
しかし、少なくとも、文在寅政権の間は関係改善は無理だと思う。実は、私の韓国の友人たち(政府関係者もいる)も同じように思っている。
◆悲しい「成果」
残念なことだが、徴用工問題解決のために基金づくりに賛成する日本人は少ないと思う。また同じことの繰り返しで、反故にされるだけだからだ。
韓国では日本製品の不買が続いている。日本製ビールが全く売れなくなった、ユニクロから客がいなくなった、韓国からの観光客が激減した─などのニュースを耳にする。
このような韓国民の反応も、日本から見るとおかしいと思えて仕方がない。これが西大門刑務所歴史館で見た反日教育の「成果」なのだとしたら、あまりにも悲しい。
南氏は、インタビューで「日本国内で嫌韓の雰囲気が広まっている」と懸念を示している。実際、その事実はあるだろう。
しかし、多くの日本人は韓国の製品の不買などしない。韓流ドラマを楽しみ、韓国人歌手に憧れ、韓国料理を味わい、韓国製化粧品で化粧をし、サムスン電子のスマートフォンを利用している。
日本の外国語専門学校の経営者によると、韓国語を学ぶ若い日本人が増えているという。それは、ドラマや歌で韓国が身近になったからだ。
こんな普通の日本人の韓国愛の状況を文大統領は知るべきではないか。
本気で日韓関係を改善したいのなら、文大統領は日韓両政府の険悪な関係が庶民レベルにまで広がるのを阻止し、日本製品の不買はやめようと言うべきだろう。少なくとも、日本では韓国製品の不買などは起きていないのだから。
しかし、これも期待するのは無理かもしれない。
◆具選手に全くの無関心
日本中が盛り上がったラグビーワールドカップで抜群の活躍をした選手に、韓国出身の具智元(グジウォン)選手がいる。
私は、にわかラグビーフアンとして、テレビにくぎ付けになっていた。日本の決勝トーナメント行きの懸かった10月13日のスコットランド戦に具選手は出場していた。彼はチームやファンから「ぐー君」と愛称で呼ばれる中心選手だ。
しかし、前半21分で涙の負傷退場をした。テレビ画面に、右わき腹を押さえ苦痛に顔をゆがめる具選手が大写しになった。
私は肋骨(ろっこつ)が折れているのではないかと心配になった。彼は、それでも戦いから退こうとしない。チームのために戦い抜きたいという彼の姿に、私は感動した。多くの日本人も同じだろう。
余計な推測だが、彼も子どもの頃に反日教育を受けたはずだ。しかし、大好きなラグビーをやるために日本に留学し、日本チームの一員として戦った。
この具選手の姿を見せることこそが日韓が和解するための最良の教育だと思う。日本人の多くは具選手の戦いを見た。そして、彼に熱い拍手を送った。当然、韓国人も同じだろうと思っていた。
ところが先日、ある韓国の財界人と話す機会があり、具選手のことをたたえたら、彼は具選手のことを全く知らなかった。
私はにわかフアンにもかかわらず、具選手がいかに素晴らしい選手であるか、説明した。しかし、彼は全くの無関心だった。
◆関係改善のためには
悲しかった。本来は韓国でも、彼を英雄扱いすべきだろう。日本をラグビーW杯初のベスト8に導いた立役者なのだから。
そういえば、あのセヌリ党の国会議員も、日本の文壇、芸能界、スポーツ界、経済界などで活躍する韓国人や在日韓国人のことを全く知らなかった。
知ろうともしていなかった。その事実にあぜんとしたものだった。
私は、日韓の関係改善のためにはまず、具選手の活躍を韓国で大々的に報じてもらいたいと思う。でも、そんなことをしたら、韓国内で具選手が批判にさらされるかもしれない。
もし、そうなるのなら、この提案は引っ込めざるを得ないし、これほど悲しいことはない。
安倍首相と文大統領が11月4日、国際会議の場を利用して10分ほど話をするなど、歩み寄り?らしき動きはあるようだ。
しかし、すぐには関係改善は期待できそうにない。とりあえず、私たちは、日韓両政府の関係悪化を国民、庶民レベルまで拡大しないように気を付けようではないか。
ラグビーW杯で南アフリカが優勝した。
「我が運命を決めるのは我なり、我が魂を制するのは我なり」
映画「インビクタス(負けざる者たち)」の中で、ネルソン・マンデラが繰り返す英国詩人の詩「インビクタス」の一節だ。
不撓不屈(ふとうふくつ)の精神を表現しているらしいが、私流に、日韓の和解を進めるのは、両国政府ではなく、私たち日韓国民なのだと解釈したい。
【筆者紹介】
江上 剛(えがみ・ごう) 早大政経学部卒、1977年旧第一勧業銀行(現みずほ銀行)に入行。総会屋事件の際、広報部次長として混乱収拾に尽力。その後「非情銀行」で作家デビュー。近作に「人生に七味あり」(徳間書店)など。兵庫県出身。
(時事通信社「金融財政ビジネス」より)
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