東京五輪は中止して、経費をコロナ禍対策に回すべきである
朝日新聞
2020年06月01日
東京五輪は中止すべきだ――感染拡大、選手の安全、治療薬・ワクチン開発
新しいレベルのパンデミック状況が生まれたのに、IOC(国際オリンピック委員会)は東京五輪の2021年開催を前提にし、数千億円にのぼると予想される追加負担分を日本に求める姿勢を示している(朝日新聞2020年5月16日、22日付)。
追加負担を要する上に収入は減少する
一方、すでに五輪会計にひずみが生まれている。ウイルス感染から選手の安全を担保する(前稿)ために相当額の新たな予算を計上しなければならなくなるばかりか、コロナ禍の影響で当初見こんだ収入は大幅に減少するだろう。
まず、仮にウイルス感染に一定の終息が見通せたとしても、ウイルス・治療薬の未普及もしくは不足と「密集・密接」に対する恐れから、五輪入場券は満足に売れないであろう。仮にあるていど売れたとしても、厚労省発表の「新しい生活様式」が提案するように、「人との間隔は、できるだけ2m(最低でも1m)空け……応援は十分な距離〔をとる〕かオンライン」で行わなければならないとするなら(ウイルスを含んだ飛沫は2メートルどころか8メートルまで達するという研究もある)、入場可能なのはおそらく収容定員の数パーセント~数割にすぎず、すでに購入された入場券代は返金さえしなければならなくなるだろう。
仮に座席間にアクリル板を立てたとしても、これ自体膨大な追加出費を要する上に、出入り口・通路での密集は避けることができない。もし無観客で五輪を開催するのであれば、入場料売り上げ収入900億円は完全に画餅と帰す。
2016年リオデジャネイロ五輪のような「密」な応援は東京五輪でできるのか
スポンサー収入も減る
おそらくより深刻なのは、新型コロナウイルス禍によるスポンサーの疲弊である。大会組織委員会の第4次予算(バージョン4、2019年12月)で言えば、スポンサー収入として、入場料売り上げ収入の4.5倍の4040億円(収入計6300億円のおよそ3分の2)が見こまれている(東京2020オリンピック競技大会公式ウェブサイト)。
だがこの間、急激な景気後退下で打撃を受けた企業は少なくない。例えば老舗衣料メーカーのレナウンが民事再生法適用を申請したが、全般的な企業業績の悪化は各種の指標から十分に推測できる。こうした企業がスポンサーだった場合、五輪開催の1年延長にあわせて来年も引きつづき出資するかどうかは、予断を許さない(ロイター東京発 2020年3月27日付)。
そればかりか、2020年の契約金さえ払えないかもしれない。
例えば東京五輪の「TOPパートナー」(=ワールドワイドオリンピック・パラリンピックパートナー「世界規模の五輪協力者」)であるトヨタ自動車。そのトヨタは、新型コロナウイルス禍の影響で2021年3月期の営業利益はほぼ79.5%減となるという予想を発表している(朝日新聞2020年5月13日付)。トヨタは2015年からTOPパートナーだというが(東京2020オリンピック競技大会公式ウェブサイト)、こうした厳しい予想の下で、2020年のスポンサー料を本当に支払える(支払えた)のかどうか。
トヨタ自動車の決算説明会で会見する豊田章男社長=2020年5月12日
「東京2020スポンサー」も五輪開催にとって重要視されるが、こちらの事情はより深刻である。同スポンサーとなりうる一般的な企業について見ると、コロナ禍の影響が現れた2020年1~3月期において、純利益はすでに78%減に急落している(朝日新聞2020年5月14日付;ただし本記事の対象は上場企業)。国内スポンサーの2020年の支払いは、トヨタ以上に厳しくなる(なっている)ことが予想される。
積年の諸問題をも問うべきである
こうした厳しい状況下では、五輪そのものの意味をあらためて問い直す必要があろう。五輪史を振り返れば、「五輪憲章」からはずれた、あるいはそれが明確に禁じた異常事態が、ずっと常態化してきた。
五輪はいつも国家間競争の観を呈してきた。競技者は個人ではなく国民として扱われ、各国のナショナリズムがあおられてきた。競技・表彰の両面においてそうである。国旗が降られ国名が連呼され、本国ではメディアが同国人のメダル獲得を大事件なみに報道し、国民統合を陰に陽にあおるのが常である。そして報道されるのはメダル獲得の国別ランキング。そればかりか東京五輪「基本方針」では、「メダル獲得へ向けた競技力の強化」まで方針化されている。
五輪はつねに国家的宣伝・発揚の場として利用されてきた。東京五輪「基本方針」では、こうした五輪の手段視が随所に見られる。
1年後に予定される東京五輪は、五輪のありかたそのものが問われる
さらに五輪では、勝敗・順位を第一義とするエリートスポーツ観が支配し、不透明かつ露骨な商業主義がまかり通り、米テレビ局の放送権料とのからみで真夏の開催が決まるという有様である。「選手第一」は建前であって、「テレビ局第一」が悲惨な実態である。
そして東京五輪の大会規模は極端に肥大化している。会計検査院の指摘を下にすれば、また関連支出をこまめに計上すれば、東京都・政府の拠出分・追加負担を含め、経費はおそらく4兆5000億円~5兆円に達するであろう(Media Close-up Report等を下に試算)。「世界一コンパクトな大会」という大義名分に支えられた当初予算は――それ自体とほうもない額とはいえ――わずか7340億円であったが、それがみるみるうちに6~7倍にも増えた。そのために開催国・都市には膨大な財政支出が課せられ、そしてその結果、ハード/ソフト両面での負の遺産・市民生活への直接/間接の深刻なしわ寄せが、生まれている。
東京五輪の1年延長にともない、数千億円にのぼる追加予算まで課せられる現実味が増しているいま、こうした積年の諸問題を棚上げにしたまま延期五輪開催を決してはなるまい。
追加負担分等をコロナウイルス対策に
私は、以上の諸問題を踏まえ、かつコロナ禍による甚大な生活困窮者、未曽有の社会経済的危機、医療機関の崩壊へといたる脆弱な体制を前にした時、数千億円規模の追加負担分や今後に予想される赤字分を支出する合理的な理由はなく、したがって東京五輪は直ちに中止されるべきだと判断する。
追加負担は、おそらく開催地である東京都もしくは日本政府が引き受けなければならないであろうが、開催地の都知事選が7月5日に予定されているため、当面この問題についての、ひいては五輪開催の是非そのものについての議論は封印される可能性があるという(毎日新聞デジタル版2020年5月6日付)。
だが、もはやそんな悠長なことを言っている場合ではない。日一日と時を空費すれば、追加負担として計上される数千億円――IOC負担の856億円を引いたとしても、それは2144~5144億円にもなると予想される。中にはIOC負担分を引いても日本側負担は6460億円(60億ドル)に達するという予測もある(iRONNA)――は、各種会場の予約金、各種サービスの契約金その他として、ずるずると費やされてしまう。そうした愚を犯すことなく、五輪経費を積極的に、新型コロナウイルス対策のために支出すべきである。
もちろん、コロナ禍もしくはそれに基づく社会的・経済的等の諸影響を緩和するためには、政府レベルの大規模な財政出動が今後も求められる。5月27日、1カ月前に成立した補正予算の不備を穴埋めする第2次補正予算案が閣議決定されたとはいえ、支援金はそれでもとうてい足りない。1円でも2円でも多くの支援金・支援物資が、困窮者に、医療機関に届けられなければならない。
新型コロナウイルス禍で経済・生活支援の問い合わせに応対するコールセンター=兵庫県加古川市役所
必要な財政出動の規模からすれば、F35戦闘機その他アメリカ製武器の「爆買い」(総計7兆1480億円)や、名護市辺野古における新基地建設にかかわる莫大な経費(防衛省試算: 9000億円、沖縄県試算: 2兆5500億円、沖縄タイムス2019年12月25日付)等をコロナ対策に回すべきだが、五輪にかかる今後の膨大な負担をも、コロナ禍で困窮している弱者(母子世帯、突然収入の道を断たれた労働者・学生、「自粛」を余儀なくされた事業者等)や医療機関にまわすべきであろう。
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