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韓国、不正追及の検事総長を政権ぐるみで排除の異常

이강기 2020. 11. 28. 10:31

韓国、不正追及の検事総長を政権ぐるみで排除の異常

 

法務部長官が「検事総長切り」、任命した文在寅大統領はただ沈黙

 

 

武藤 正敏(元在韓国特命全権大使)

JB Press

2020.11.27(金)

 

文在寅大統領と秋美愛法務部長菅(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

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 前々回寄稿の続編である。秋美愛(チュ・ミエ)法務部長官の尹錫悦(ユン・ソクヨル)検事総長に対する怒りはとどまるところを知らないようだ。今度は一方的に懲戒を請求し、職務停止にしてしまった。秋長官による懲戒請求と職務停止は、大統領による解任という手続きを取らず、事実上同様の効果を狙ったものである。

 

 大統領の解任権は明示されたものではなく、検事について検察庁法は、懲戒処分や適格審査を経なければ、解任、免職、停職などの処分を下せないと定めている。懲戒委員会では検事総長の解任を決定するとの観測が強まっている。

 

 この措置に先立って秋長官は文在寅大統領に報告したが、文在寅氏は黙っていたという。一連の秋長官の“超法規的”行動は、多くの法曹界関係者から激しい批判を浴びている。

 

(参考記事)文在寅の大誤算、検察に圧力の法務部長官に悪評紛々
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/63001

 

 尹総長は、「検察の政治的中立性を守るためこれまで一点も恥じることなく検事総長の任務を全うしてきた」、「違法で不当な処分に対し、最後まで法的に対応する」という立場を表明した。最高検察庁は近々執行停止申し立てをする見通しだ。

 

「ハンギョレ新聞」はこの状況を、秋長官は「最後のカードを切った」と表現した。もはや妥協はない。韓国の司法界がここまで分裂しては、どちらか、もしくは双方の辞任・解任なしには収まらないであろう。

 

 

秋長官による懲戒請求と職務停止の根拠

 

 秋長官は24日、尹検事総長に対して懲戒請求と職務停止を命令した。現職検事総長に対する職務停止は憲政史上初めてのことである。

秋法務部長官から懲戒請求と職務停止を命じられた尹錫悦検事総長。2019年9月撮影(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

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 秋長官は緊急記者会見を行い、「検事総長に対する様々な不正疑惑に対して直接観察を進めた結果、深刻で重大な不正疑惑を多数確認した」と明らかにした。秋長官は尹総長への懲戒請求と職務停止の理由として次の6つを上げている。

 

・事件に関連する報道機関の社主との不適切な接触
・曺国前法務部長官事件などの裁判を担当する判事に対する「不法査察」の指示
・チャンネルA事件及び韓明淑(ハン・ミョンスク)元首相事件の監察妨害
・チャンネルA事件の監察関連情報を外部に流出
・政治的中立に関する威厳と信頼損傷
・尹検事総長に対する対面調査の過程で協力義務違反及び監察妨害

 である。

 

 

秋長官の措置は「違法」との主張も

 

 今回の措置の根拠の一番目に挙げられた、「報道機関(JTBC)社主との面会」というのは、尹氏がソウル中央地検長だった2018年11月、ソウル市内の飲食店で、事件関係者であるテレビ局JTBCの実質的な社主と会っていたというものだ。検事の倫理綱領は「検事が事件関係者と私的に接触すること」を制限している。これに違反したというのだ。

 

 このときJTBCは、ジャーナリスト辺煕宰(ピョン・ヒジェ)氏から、朴槿恵(パク・クネ)前大統領を追い落とすことになった崔順実(チェ・スンシル)氏のタブレット端末に関するJTBCの報道は捏造だと批判されていた。これに対してJTBCは、辺氏を名誉棄損で告発しており、地検はその事件の処理にあたっていたのだ。

 

 だが、尹氏がJTBCの実質的社主と会ったのは、辺氏がすでに起訴された後のことだったし、面会した事実は当時の文武一(ムン・ムイル)検事総長に報告しており、尹総長が便宜を図ったことは考えられないのだ。つまりこの点を根拠に、尹氏を職務停止に追い込むのは無理がある。

 

 二番目の点はどうか。秋長官は、裁判所判事に対する不法査察疑惑を提起している。

 

 秋長官によれば、韓国の最高検察庁は、曺国前長官事件などを担当する判事について、これまでの政治的事件についての判決内容、「ウリ法研究会」加入の有無、評判、家族関係などについて、公開情報に基づく報告書を作成していた。公判対策に利用しようとするものだ。そのことが問題だと、秋長官は言うのである。

 

 これに対し、判事出身の弁護士などからは「検事も弁護士も勝訴のため、事件を担当する判事のスタイルなどを把握しようと努力するものだ。最高検察庁が既に公開されている判事の情報を収集、整理して、一線の担当検事に提供することは通常の業務支援の性格が強い」と、秋長官の指摘を疑問視する声が上がっている。

 

 秋長官が挙げた三つ目の根拠は、尹総長が、チャンネルA事件と韓明淑(ハン・ミョンスク)元首相の事件に関して、最高検察庁監察部が実施しようとした監察を妨害したというものだ。

 

 問題となっている事件に関与していた尹総長の側近・韓東勲(ハン・ドンファン)検事長を、最高検察庁の監察部が監察すると報告すると、尹総長はこれを中断させ、その任務を最高検察庁監察部ではなく人権部に割り当てたのだという。当時の韓東洙(ハン・ドンス)監察部長は曺国前長官が推薦した人物だった。この時、韓部長は一連の状況を自身のソーシャルメディアで公開し、尹総長を批判したのだが、逆にそのことが「監察情報の漏洩」との指摘を受けていた。

 

秋長官が尹総長を懲戒請求した根拠について、全て解説するのは紙幅の都合もあるので控えるが、五つ目に挙げた根拠のことは触れておきたい。

 

 これは先ごろ行われた次期大統領候補に相応しい人物を選ぶ世論調査で尹総長が1位なったのだが、それをそのまま放置したことが「政治的中立に対する不信を解消するために真実かつ積極的な措置を取らずに黙認・幇助した」というのである。外部機関が勝手に実施した世論調査の結果にまで責任を負わされるのではたまったものではない。

 

 しかも、尹総長は2月と8月、調査機関に対して自分を調査対象から除外してほしいと頼んだ経緯がある。だとすれば秋長官の指摘は「とんだ言いがかり」と言えるだろう。

 

 

秋長官による懲戒請求は解任処分の布石

 

 秋長官が懲戒請求をしたのを受け、尹氏の懲戒の是非や処分内容を決める法務部の検事懲戒委員会が早ければ来週にも開かれる。

 

 懲戒委は法務部長官を委員長とし、同部次官、同部長官が指名した検事2人、同部長官が委嘱した弁護士ら3人の計7人で構成される。この構成でわかるように、懲戒委員会は法務部長官に意のままになる組織である。

 

 委員会は委員の過半数の賛成により懲戒を決定し、解任、免職、停職、減給、けん責があり、懲戒委が減給以上の処分を決定すれば法務部長官の求めにより大統領が執行する。

 

 おそらく懲戒委は、秋氏の意向に沿って尹氏の解任処分を決定することになるだろう。

 

 

抗戦態勢固める尹総長

 

 これに対する尹総長は、25日は最高検察庁に出勤せず、弁護人の選任などを行った模様だ。法曹界などからは、秋法務部長のあまりにも恣意的で強引な今回の措置への反発から、尹総長を支援しようという機運が盛り上がっている。すでに尹総長に対して、検察出身の弁護士など10人余りからの支援申し出があるという。尹総長は政治的な色彩の薄い判事出身の弁護士を検討していると伝えられているが、検事出身の後輩弁護士が弁護団に合流する可能性もある。尹総長は弁護人選任後、仮処分申請にあたる「執行停止申請」を行った。

 

 尹検事総長の職務停止という事態に、最高検察庁の研究官らは会議を開き「秋長官の指示は間違いで不当な措置だ」とする声明を出したのに続き、釜山地検東部支庁らも末端検事による会議を開き、同様の立場を表明した。

 

 さらに24日から25日にかけ、検察の内部通信網イープロスに秋長官を批判する検事の文章が6件掲載され、それに同調するコメントが25日午後には350件を超えたという。地検の人権監察官が掲載した批判文には、「ゲッベルス(ヒットラー側近で宣伝・扇動を総括した人物)が思い浮かぶ一日だ」というコメントが寄せられた。もはや反発は検察全体を巻き込んだものとなっている。

 

 法曹界からも批判の声は上がっている。メディアの取材に対して、元検事総長、さらには大統領選の際に文在寅氏の選対で公益情報提供情報支援委員長を務めた弁護士からまでも、秋長官に対する強い非難の言葉が寄せられている状況だ。

 

 

法曹界は「職権乱用」として秋長官を非難

 

 法曹界の多くの人々は、「尹総長に対して一度もしっかりした監察がないまま、不正があるといって懲戒を請求し、職務を停止するというのはあり得ないことで、明らかに職権乱用に該当する」「秋長官の主張は一方的な主張であり、客観的に見て容易に納得できない内容があまりにも多い」「まるで尹総長が有力な大統領候補として浮上していることに対して、秋長官や与党関係者らがけん制していると思えるほど論拠が十分でない」と非常に厳しい指摘が相次いでいる。

 

 河昌佑(ハ・チャンウ)元大韓弁護士協会会長は「政治家の長官が権力捜査を阻もうと最後の手段を動員して検事総長を押さえつける行為は、民主国家では類例をみない。法治を荒廃させる無謀な政治行為だ」「政治が法の上に君臨することはできない。今日は大韓民国の法治に弔鍾を鳴らした闇の歴史として記憶されるだろう」と最大限の言葉で非難している。

 

 

尹検事総長を切りたい大統領は沈黙守る

 

 こうした一連の動きの中で、不可解なのは「沈黙」を貫く文在寅大統領の態度だ。

 

 秋長官は、尹検事総長の職務を停止する前に、文大統領に報告した。その際の大統領の反応について、青瓦台の報道官は「文大統領は法務部長官発表直前に関連の報告を受け、それについて別途の言及はなかった」とSMSで公示した。国内で2人の反目が大きな注目を集めているにも関わらず、2人を任命した大統領は立場を表明していない。

 

 野党「国民の力」の朱豪英(チュ・ホヨン)院内代表は「中央日報」のインタビューに対してこんな見解を示している。

 

「秋長官が文大統領の意向に反してこのようなことをするか。事実上文大統領の借刀殺人(他人の刀を借りて人を殺す、の意)ではないか」

 

「文政府の不正と不正腐敗に捜査の矛先を向けたからといって尹総長を追い出そうと決意した」

 

 秋長官といえども、任命権者である大統領の意向に反して尹総長を罷免できない。つまり、秋長官は文大統領の指示を受けて、あるいは文大統領の意を忖度して、この極めて強引で、根拠に乏しい、「検事総長の懲戒請求」という行為に出たのだ。そう考えれば、大統領の「沈黙」にも納得がいく。

 

 文大統領は、秋長官が尹検事総長を「排除」するのを、その背後からじっと見ているだけだ。自ら手を下そうとはしない。

 

 

何しろ、尹検事総長は政権にとってもはや「厄介者」だ。

 

 尹検事総長が指揮する検察は、政権与党の不正の追及を進めていた。権力のタブーにも切り込んでいこうという気概を見せていた。

 

 与党内では、原発の経済性調査で検察の捜査が青瓦台まで伸びることを極度に警戒していた。蔚山市長選挙への青瓦台の介入は政権がもみ消してきている。政権関係者の関与が疑われているライム資産運用・オプティマスファンドへの捜査では、秋長官は事件の指揮から尹総長を排除し、尹総長が捜査過程に不適切に介入したという疑惑について監察を指示したほどだ。政権の腐敗に切り込む尹総長を、秋長官はなりふり構わず排除してきた。その頂点が今回の懲戒請求だ。

 

 尹総長の職務停止を受け、法曹界と検察から「政権を狙った様々な捜査が無力化されるのではないか」という懸念が高まっている。「これまでは尹総長が持ちこたえてきたから、政権の外圧を阻む役割を果たしてきた。もはや目の上のたんこぶ(尹総長)が職務停止で無力化され、権力への捜査に対する圧迫はさらに露骨なものになるとの見方が出ている。

 

 秋長官の思い通りに尹総長を排除できるか、あるいは尹総長が政権の圧力を撥ねつけて立場を維持できるか。その結果次第で、韓国の検察組織が権力の監視システムとして機能していけるかどうかが決まってくるだろう。

 

文氏は「卑怯な大統領」に

 

 この秋長官と尹総長の葛藤について、中央日報は「いったい大統領はどこにいるのか=韓国」と題する社説で、大統領の無策を次のように非難した。

 

<今の検察総長を任命した人は文大統領だ。任命状を手渡すときは「私たちの総長様」と呼び、「生きている権力を捜査してほしい」と話した。尹総長は先日、国政監査のときに「大統領が『ブレることなく任期を守って任務を全うしてほしい』と伝えた」と明らかにした>

 

<もし懲戒や職務停止の理由があるなら、大統領は国民に「任期2年が保障された検察総長だが、さまざまな間違いがあって解任する」と説明するのが当然ではないか。任期を保障できない理由を明らかにし、政治的な責任も負わなければならない。だが何の言及もない>

<今必要なのは大統領のはっきりした態度だ。検察総長を更迭するにしても法務部長官を解任するにしても、今はこの問題に線を引かなければならない。それから大統領の立場を国民に説明して、結果に責任を負わなければならない。少なくとも大統領が法務部長官の背後に隠れたという非難から抜け出すべきではないか。後世に「卑怯な大統領」と記憶されないことを願う>

 

 韓国内のメディアや国民は、すでに文在寅大統領の政治姿勢を見極めている。都合がいいところでそれなりのポーズを取るのは上手いが、自分が矢面に立ちそうになると、「我関せず」を決め込んで逃げ回り続ける。おそらく今回の秋法務部長と尹検事総長との対立問題についても、前面に出てきて判断を下したり、国民に向かって説明したりすることはないだろう。それがこれまでもよく見て来た文大統領の態度だ。

 文大統領は、尹検事総長への懲戒請求、職務停止について報告を受けた時、沈黙していたと青瓦台報道官は公表した。ただ、その時点で、懲戒委員会によって解任の決定を出すとのシナリオが秋長官との間でできていたとしてもおかしくない。

 

 徴用工の時と同様、自ら責任を取らず、自らへの批判を避けながら、懲戒委員会の決定だとして解任するのか。そうだとすれば、中央日報の社説のように、「後世に卑怯な大統領」として記憶されることになりかねない。

 

 韓国民は、この指導者にあと1年半付き合わなければならない。彼らが自分たちで選んだ大統領とはいえ、気の毒と言うしかない。