北韓, 南北關係

金正恩氏「外交デビュー」の意外な真相

이강기 2022. 3. 29. 22:59

金正恩氏「外交デビュー」の意外な真相【礒﨑敦仁のコリア・ウオッチング】

 

礒﨑敦仁

時事通信, 2022年3月28日

 

北朝鮮とラオスのユルい友好関係

記念撮影に臨む(右から)北朝鮮の金正日朝鮮労働党総書記、ラオスのチュンマリー・サイニャソーン国家主席、金正恩氏=朝鮮中央通信が2011年9月23日に撮影、北朝鮮・平壌【AFP時事】

 

 

 金正恩氏が北朝鮮のトップに就任する前、初めて公式に面会した外国首脳は誰だったか、ご存じだろうか。中国の習近平国家主席でもロシアのプーチン大統領でも米国のトランプ前大統領でもない。答えは、チュンマリー・サイニャソーン氏。ラオス人民民主共和国の国家主席兼ラオス人民革命党中央委員会書記長(いずれも当時)である。

 

 2011年9月に同氏が平壌を訪問し、金正日朝鮮労働党総書記との間で首脳会談が開催されたが、その際に党中央軍事委員会副委員長だった金正恩氏も交えたスリーショットの写真が撮られ、『労働新聞』に掲載されたのである。この3カ月後には金正日氏の死去に伴い、金正恩政権が発足することになるのだが、なぜ若き指導者の外交デビューの相手にラオスが選ばれたのだろうか。

 

 

金日成主席が「韓国産」高麗人参を贈呈?

 

【図解】ラオス

 

 コロナ禍で海外渡航が制限される前、ラオスの首都ビエンチャンを訪ねた。人口700万のラオスは、中国はもちろん、間もなく1億人に達するベトナムに比べても小国である。北朝鮮とラオスが友好関係を謳(うた)っても、経済的な実利は相互に乏しい。2000年代まで「朝鮮ラオス青年親善センター」という組織が交流窓口となっていたが、私が訪れた時は「平壌飯店」になっていた。北朝鮮が外貨稼ぎのためにオープンした朝鮮料理レストランである。ビエンチャンでも韓国企業や韓国製品の存在感のほうがずっと大きい。

 

 ラオス人民革命党初代書記長カイソーン・ポムウィハーンをたたえた博物館前の記念碑は、金日成、金正日親子の大銅像がある平壌・万寿台のものにそっくりだった。北朝鮮側が工事を請け負ったのだから当然のこと。しかし、金日成氏からカイソーン氏への贈り物として館内に陳列されていたのは、「大韓民国」製の高麗人参という代物であった。何か手違いがあったのだろうが、南北朝鮮を混同して適当に陳列してしまうユルさ、朝鮮半島との物理的距離を実感せざるを得なかった。

 
 
 

オープンした当時のカイソーン記念博物館=2000年12月、ラオス・ビエンチャン【時事通信社】

 

 

 それでも金正恩政権は、ラオスとの関係を軽視しなかった。北朝鮮がどの国を重視しているか知るための手掛かりとして『労働新聞』などに掲載される年賀状や祝電の紹介順がある。ラオス首脳からの年賀状は、少なくともベトナムより先に紹介されてきた。2018年についてはロシアや中国を抜いてトップで紹介されたほどである。今年は中国、ロシア、ラオス、ベトナムの順でまずは社会主義国家の首脳を並べ、次に友好国シリアのアサド大統領などが続いている。

ラオスのチュンマリー・サイニャソーン国家主席(中央)から贈り物を受け取る北朝鮮の金正日朝鮮労働党総書記(左)。やや後方、右側に立つ男性が金正恩氏=朝鮮中央通信が2011年9月23日に撮影【AFP時事】

 

 

 さて、冒頭に紹介した金父子とラオス首脳のスリーショットだが、ビエンチャンで当時の舞台裏を探ったところ、意外な話を耳にした。それによると、首脳間の交流行事に金正恩氏が同席することは事前の打ち合わせにはなく、フォトセッションのタイミングで突然登場したのだという。つまり、金正日氏の正統な後継者としての外交デビューにラオスが利用された形である。いくら社会主義国家同士の党間親善外交とはいえ、予定にない人物が飛び入り参加するのはいささかプロトコール(外交儀礼)を無視した行為であり、中国に対して同じことはできまい。北朝鮮とラオスの結びつきを物語るエピソードではある。

社会主義30周年を祝う式典で整列するラオス軍部隊=2005年12月、ビエンチャン【AFP時事】

 

【筆者紹介】


礒﨑 敦仁(いそざき・あつひと)
慶應義塾大学教授(北朝鮮政治)
1975年生まれ。慶應義塾大学商学部中退。韓国・ソウル大学大学院博士課程に留学。在中国日本国大使館専門調査員(北朝鮮担当)、外務省第三国際情報官室専門分析員、警察大学校専門講師、米国・ジョージワシントン大学客員研究員、ウッドロウ・ウィルソンセンター客員研究員を歴任。著書に「北朝鮮と観光」、共著に「新版北朝鮮入門」など。

(2022年3月28日掲載)

 

 

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