日本, 韓.日 關係

韓国・徴用工訴訟「日本企業の資産現金化」が近く決定か、元韓国大使が解説

이강기 2022. 8. 6. 20:25

韓国・徴用工訴訟「日本企業の資産現金化」が近く決定か、元韓国大使が解説

Diamond Online, 2022.8.6 5:00

 

 

                                                                           写真はイメージです Photo:PIXTA

 

外交部が大法院に対し
徴用工問題で意見書を提出

 韓国の大法院(日本の最高裁判所に当たる)は2018年10月30日、元徴用工の賠償請求訴訟で三菱重工など日本企業に対し、賠償を命ずる判決を行った。さらに2019年1月9日には、原告側による日本企業の財産の差し押さえ申請が認められた。大法院では現在、資産の売却命令を不服とする日本企業の再抗告が審理中で、今年9月前後には棄却により資産現金化の決定がなされる可能性がある。

 

 日本企業の資産現金化については、日本政府が猛反発しており、報復措置が検討されている。その結果、日韓関係は壊滅的な打撃を受けることが想定されている。

 

 このため、韓国政府は解決策を検討するための官民協議会を設置、さらに朴振(パク・チン)外相が訪日して外相会談を行ったが、具体的な進展はなかった。

 

 こうした状況の中、外交部は大法院に対し、「徴用工問題解決に向けた外交的努力」を説明する意見書を提出した。

 これに関し中央日報は、徴用工問題の外交的解決に努力している間に、大法院の最終結論が出ることを憂慮した措置と解説している。外交部の意見書提出は、国家間の利害関係が対立する外交的事案の場合、司法的判断ではなく行政府の立場が優先して反映されるべきだという「司法自制の原則」を要請するメッセージだという。

 

官民協議会を設立したが
元徴用工側の立場に妥協の余地なし

 韓国政府は資産現金化の前に望ましい解決策を見いだすべく、外交部の趙賢東(チョ・ヒョンドン)第1次官の主宰で、徴用工被害者団体、法律代理人、学界専門家、言論・経済界から12人が参加する官民協議会を設立し解決策の模索を始め、これまでに7月4日、14日の2回、会合を行った。

 

 この会合に参加した元徴用工側のチャン・ワンイク弁護士とイム・ジェソン弁護士、民族問題研究所対外協力室のキム・ヨンファン室長は、会議と記者会見の場で、「被害者と日本の加害企業と直接交渉することが道理にかなっている」とし「政府が外交的努力をしてほしい」と述べた。また、仮に政府が検討する代位弁済方式を取る場合には、少なくとも、基金に加害者である日本企業が参加することと謝罪を行うことが不可欠であると主張した。

 しかし、元徴用工側のかたくなな姿勢のため、朴振外相の訪日では具体的な成果は何もなく、現金化のタイムリミットが近づいてきた。このため外交部が取った措置が、大法院への意見書の提出であった。

 

 外交部は7月29日、「政府は(徴用工問題に関し)韓日両国の共同利益に合う合理的な解決策を模索するため、日本と外交協議を続けていて、官民協議会などを通じて原告側をはじめとする国内各界各層の意見を聞くなど多角的な外交努力を続けている」として、大法院の民事訴訟規則(国家機関は国益関連の事項に関して大法院に意見書を提出することができるとする規則)に基づき意見書を提出した。

 

外交部の意見書提出で
元徴用工団体が相次ぎ反発

 日本製鉄・三菱重工・不二越の3社を相手取って訴訟を提起してきた被害者支援団体は、外交部が大法院に対する意見書の提出によって信頼関係を壊したとして、官民協議会から離脱すると宣言した。

 

 この被害者支援団体は、外交部の意見書提出に「深く遺憾を表明する」とのコメントを発表。また、「官民協議会という公開的な手続きが進行しているにもかかわらず、その手続きで全く議論されなかったことはもちろん、被害者側に事前にいかなる議論や通知もなく意見書が提出された。外交部は既に提出された意見書でさえ被害者側に公開できないという立場を守っている」と非難した。

 

 

そして「被害者支援団体と代理人団は官民協議会に被害者側の立場を十分に伝達し、官民協議会からはその後実効的な意見も出てこないと判断し、外交部の意見書提出によって信頼が失われたことから官民協議会への不参加を通知する」と明らかにした。

 

 こうした中、ソウルと光州(クァンジュ)の元徴用工支援団体は緊急会合を行い、従来官民会議に参加していたソウルの支援団体も光州同様、不参加の方針を固めたという。これによって、元徴用工支援団体と外交部の対立は決定的となった。

日本政府は資産現金化に備え
具体的な報復措置を検討

 朴振外相は7月18日から20日まで訪日し、林芳正外相と会談、岸田文雄首相を表敬し、徴用工問題解決の取り組みを説明した。その際、朴振外相は、元徴用工の解決策づくりは韓国側が主導するにしても、日本側もやはり解決策をまとめるのにあたり韓国側の努力に応えてほしいと求めた。

 両外相は会談で「韓国裁判所が日本企業の韓国国内資産を現金化する最終結論を下す前に、どのような形態であれ解決策を出さなければならない」ということで認識を共有した。しかし、具体的な解決策に関する意見交換はなされなかったようである。

 

 日本側は「1965年の日韓請求権協定で解決済み」との立場を強調した。しかし、朴振外相は 会談後の韓国特派員との懇談で、「徴用工問題を解決するための韓国政府の努力に日本政府も誠意をもって対応する考えがあるようだ」と説明した。

 

 これはあまりにも楽観的な見方であるが、そういわざるを得なかった韓国政府の苦しい立場を反映したものであろう。日本側が「誠意をもって対応する考え」があることを踏まえて徴用工側を説得しようとしているのであろう。

 当然のことながら、日本側の会談の結果に関する受け止めは違った。

 

 自民党は7月21日、外交部会を開催した。この席に出席した佐藤正久部会長は「(現金化は)深刻な問題なので、(外務省が)具体的な対抗措置を考えている」という事実を明らかにしたという。

 

 また、産経新聞は、日本政府による対抗措置は抗議や遺憾などの言葉のレベルではないと報じている。

 

 朴振外相の訪日の結果を自民党に報告した外交部会で対抗措置について言及があったということは、徴用工問題に関する状況が切迫しているということである。

 

官民協議会における徴用工支援団体と日本政府の立場の違いがますます浮き彫りとなっている。しかし、両者を調整しなければならない尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の支持率が急速に低下し、重要な問題への対応よりも政権基盤の維持にきゅうきゅうとしなければならない状況は、問題の解決の大きな支障となろう。

 

尹錫悦大統領の支持率が
20%台に下落した理由

 7月29日に韓国ギャラップが発表した最新の世論調査によると、尹錫悦大統領を「支持する」人は28%、「支持しない」人は62%であった。尹錫悦大統領の支持率は、支持基盤である大邱・慶尚北道や高齢者でも大きく下落した。

 不支持の理由としては、人事(21%)、経験と資質不足(8%)、経済と国民生活の問題に取り組んでいない(8%)、独裁的・一方的(8%)、疎通が不十分(6%)、警察局新設(4%)、与党内の対立(3%)などの順となっている。

 

 人事問題は、多くの検察出身者を主要なポストに任命したことが、否定的に映っているのであろう。また、与党内の対立で支持基盤を失っている面も大きい。さらにこれまで尹錫悦政権は経済に重点を置くと言ってきたが、そのビジョンが十分に示されておらず、むしろ、文在寅(ムン・ジェイン)政権幹部の不正の追及、警察との対立に集中しているかのような印象を与えている。

 

 朝鮮日報は、「国政で大きな失敗があったわけでもない。謙虚さのない態度とよくわからない理由で対立を続け、結果的に自滅したのだ。大統領を含む政権与党が感情的で器が小さく、政治的な利害に執着したため、結果として大統領選勝利からわずか4カ月で政権の危機というあり得ない記録を打ち立ててしまった」としている。

 

 与党では尹錫悦大統領が権性東(クォン・ソンドン)代表職務代行兼院内代表に送った「(党)内部に銃を向けていた党代表}という李錫悦代表を侮辱するメールの流出が問題となり、裵賢鎮(ぺ・ヒョンジン)最高委員などの辞任が相次ぎ、「新しい指導体制に移行すべきだ」との声が高まっていた。

 

 こうした状況を踏まえ、与党「国民の力」は8月1日、議員総会を開き、党を非常対策委員会体制に移行することで一致した。所属議員89人が参加した会合で反対意見は1人だけであった。李俊錫代表側の反発と党全国委員会での議決手続きが残っているが、非常対策委体制への移行の可能性が高まっている。

 

選挙で敗れた野党が非常対策委員会体制に移行することは珍しくないが、選挙に勝った与党が非常対策委員会に移行するというのは極めて珍しい出来事だろう。しかし、このような化粧直しで支持率が回復するわけではない。

 

 国民の力の崔在亨(チェ・ジェヒョン)革新委員長は、尹錫悦大統領には「精製された言葉と謙虚な姿勢が必要だ。謙遜を失う瞬間、国民の心は離れる。前政府のせいにするのは全く意味がない。国民にとってはビジョンを提示して未来を開いていくのが大事だ」と指摘している。

 

日本は資産現金化後の対応を
真剣に検討すべき時期

 尹錫悦政権がこのような状態の時に、資産現金化の問題がクライマックスを迎える。この問題で日本政府の立場は明白であり、元徴用工側をいかに説得するかが鍵である。

 

 しかし、大法院における資産現金化の決定が目前に迫っている中、元徴用工側が譲歩する可能性は極めて低い。韓国政府が国民の支持を失い、しかも政権による国民との意思疎通の不足や謙虚な姿勢の欠如がその主要な要因の一つとなっている現状で、大法院の決定を覆す施策を打ち出せる可能性は高くないであろう。

 

 日本政府として、資産の現金化が行われた後の対応を真剣に検討しておかなければならない時期に来ている。その場合、どのような具体的報復を行うかだけでなく、韓国政府との関係をどうするか、日米韓の協力体制をいかに維持していくかも含め、総合的な対応が必要となるだろう。

 

 文在寅政権の負の遺産が日韓関係を危機に陥れている。しかし、尹錫悦政権も前政権のせいにするのではなく、これにいかに対応できるか、今後の尹錫悦政権の動向を占う上の試金石となるだろう。

(元駐韓国特命全権大使 武藤正敏)