日本, 韓.日 關係

大法院、徴用工訴訟で三菱重工の資産売却先送り、事態打開への次のシナリオは

이강기 2022. 8. 23. 14:15

大法院、徴用工訴訟で三菱重工の資産売却先送り、事態打開への次のシナリオは

 
尹錫悦大統領が出す「関係改善」へのサイン、日本政府は無駄にするな
 
JB Press, 2022.8.23(火)

                            8月17日、就任から100日目の日に記者会見を行った尹錫悦大統領(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

                                               (긁어 부스름 만든 전직 대통령 땜에 '쌩고생'하는 현직 대통령 - 강기생각)

 

 戦時中の徴用をめぐる訴訟での資産売却命令に関し、三菱重工業が韓国の大法院(最高裁)に出した再抗告が受理されてから、8月19日はちょうど4カ月目の日となっていた。

 

 韓国の上告審手続きに関する特例法によると、大法院は再抗告の受理から4カ月以内であれば、理由を示さずに「審理不続行」との判断で棄却することが出来る。19日は「審理不続行」の決定期限であり、同日までに判断が下されるとの見方が出ていた。

 

 もしも三菱重工による再抗告が棄却された場合、日本側としては資産の現金化を止める司法の手段が尽き、原告は日本企業の資産を現金化する具体的な手続きを始められるようになる。日本政府は日本企業に実害が及んだ場合、対抗措置を辞さない構えで、日韓関係が一層悪化するのは確実だった。

 

 

「現金化」の決定先送り

 だが、日韓関係の改善をめざす尹錫悦大統領は、日本企業に実害が及ぶ資産の現金化を回避する姿勢を鮮明にしてきた。これに対し、韓国強制動員市民の会は、反発を強めていた。政府と徴用工支援団体との激しい対立の板挟みとなっていた大法院は、19日にどのような決定をするか注目されていた。

 その19日、大法院はどのような決定を下したか――。なんと、18時までの業務時間内に、三菱重工の商標権・特許権など韓国資産の売却(現金化)命令を巡る再抗告について最終的な決定を出さなかったのだ。要するに、決定の先送りだ。

 だが、日本側はこれで一安心というわけにはいかない。今後も再抗告についての審理は継続されることになっており、大法院がいつ決定を下すか予断は許さないのだ。

 

 今回の決定先送りに至る経過、その意味、今後の見通しについて分析してみよう。

 

 

日韓の衝突回避に努力する尹錫悦大統領

 韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は、就任前から、日韓関係を改善する姿勢を鮮明にしてきた。

 

 8月15日の光復節(日本の支配からの解放記念日)演説でも、徴用工などの具体的な歴史問題には言及しなかったが、「韓日関係の包括的な未来像を提示した『金大中(キム・デジュン)・小渕共同宣言』を継承し、韓日関係を早期に回復、発展させていく」と述べ、日本との関係改善に意欲を見せていた。

 

 さらに17日、尹大統領就任100日に行った記者会見では、「韓日関係は、世界の安全保障上、サプライチェーンや経済安全保障の次元で緊密に協力しなければならない関係になったため、過去の問題については合理的な結論を導きだせると思う」として、日韓関係の重要性を強調、その改善と深化に取り組む姿勢を示していた。

 

 このときの会見では、徴用工問題にも触れていた。徴用工への補償は大法院で確定判決が言い渡され、被害者は法による補償を受けることになっているのだが、「日本が憂慮する主権問題の衝突なく、債権者(勝訴した原告)が補償を受けられる方策を検討中だ」と述べたのだ。尹大統領の念頭には、上述の三菱重工の再抗告から4カ月となる19日のタイムリミットがあったのだろう。大統領自身が解決に努力していることを明言することで、大法院が資産現金化にゴーサインを出すことを回避しようとしたのではないだろうか。

 日本企業資産の現金化を止めようとする努力は、大統領だけでなく、韓国政府も見せていた。

 韓国メディアが審理継続の判断の根拠にしたのが、外交部が7月26日、大法院に対して、「徴用工問題解決に向けた外交的努力」を説明する意見書を提出したことだ。これは、国家間の利害関係が対立する外交的事案の場合、司法的判断ではなく行政府の立場が優先して反映されるべきという「司法自制の原則」を要請するメッセージだという。外交部の意見書も、大法院の最終結論が出ることを憂慮した措置だ。

 

 

尹大統領にとり日韓関係の修復は至上命題

 尹大統領がこのように様々なさまざまな手を使って、日本企業資産の現金化を止めようとしている背景には、韓国の安全保障上、日本との関係改善は不可欠との判断があるからだ。

 

 尹錫悦大統領は、北朝鮮の核ミサイル開発に断固たる姿勢で臨むことを明言している。また、中国ともTHAAD(高高度防衛ミサイル)を巡って対立が深まっている。このため、日本・米国との協力関係の一層の強化は外交上の最重要課題となっており、徴用工問題で日本との対立をこれ以上深めることはできない。

 

 北朝鮮との関係では、核・ミサイル開発を放棄すれば、支援を強化することを伝えている。しかし、北朝鮮の金正恩氏は、コロナ禍や食糧危機の中でも核・ミサイル開発を最優先させており、核弾頭の小型化(ICBMや戦術核にも対応)や迎撃困難な弾道ミサイルの開発に進んでいる。

 

 こうした脅威に対して尹錫悦大統領は、米韓合同軍事演習の再開に加え、キルチェーン先制攻撃システム、ミサイル迎撃、報復計画の「3軸防衛システム」強化や、制裁などで対抗する構えを見せている。すると北朝鮮はこれにも反発。米韓軍事演習再開に対し、ミサイルを発射するなど対決ムードが高まっているのは読者もご承知の通りだろう。

 中国との関係でも緊張感が高まっている。特に、THAADを臨時的配備から正式配備に移行することで対立が深まっているのだ。

 中国は中韓外相会談のブリーフイングで、従来韓国の公約としていた「三不」(追加配備しない、米国のミサイル防衛体制に入らない、日米韓軍事同盟に入らない)に加え、「一限」(中国がTHAADの影響が受けないようにする)の公約も追加してきた。

 

 これに対し韓国大統領室は11日、「THAADは北朝鮮の核やミサイルの脅威に対抗する自衛の防衛手段だ」「決して中国との協議対象ではなく、8月ごろにはTHAAD基地が完全に正常化するだろう」と述べ、中国の主張に対しては内政干渉だとして真っ向から対立している。

 

 中朝との対決が深まる尹錫悦政権の外交は、日米との関係強化に動いている。

 

 米国との関係ではバイデン大統領の韓国訪問で、協力関係が格段と深まった。一方、日韓関係は徴用工問題などを巡り対立は解消されておらず、韓国の安全保障、国益の観点からこれ以上の関係悪化は避けなければならない状況だ。

 

 こうした背景で出てきたのが、光復節での演説や記者会見での発言である。これは大法院の決定を前にしての重要なメッセージとの側面があった。

 

大法院にとって「助け舟」となった大統領の発言

 19日までに大法院が三菱重工の再抗告棄却の決定を行わなかったのは、尹錫悦大統領の発言や外交部の意見書が免罪符となっているためではないだろうか。

 尹錫悦政権の姿勢に対して、元徴用工支援団体は強く反発している。

 

 韓国強制動員市民の会は、尹大統領が記者会見で「“日本が懸念する主権問題に衝突しない”解決」に言及したことに対し、

 

「光復節の祝辞では強制動員被害者問題に対して一言の言及もなかったのに、今日は日本の主権問題を心配している。いったいどこの国の大統領の口から出た話なのか」

 

「強制動員被害補償判決と強制執行問題は全面的に韓国の司法制度によって進行される司法主権の問題。ここに日本の主権問題が割り込まなければならない理由は全くない」

 

 などと批判している。

 

 また、大法院に意見書を提出した外交部に対しては、その行為が信頼関係を壊したとして、尹政権が徴用工問題の解決のために設置していた官民協議会から離脱すると宣言した。

 

 このように韓国政府と徴用工支援団体の対立は激しくなる一方で、問題解決のめどは全く立っていない。

 

 

 そもそも韓国では、元徴用工や元慰安婦など韓国で「歴史被害者」と言われる人々に対しては、国民世論の感情的な同情があり、裁判官といえども、その行動に反対したり、その意向に反する判決下したりすることは、国内で強いバッシングを受けかねない。法に基づいて判断する裁判官であっても、徴用工団体の意向に反する決定を下すのはなかなか困難な状況にあるのだ。

 

現金化がなされれば日本政府は必ず報復

 しかし、歴史被害者や世論の強い声に流されるような判断を裁判所が下せば、韓国の安全保障や経済に大きなダメージを与えることになりかねない。尹徳敏(ユン・ドクミン)駐日韓国大使は8日、韓国特派員との懇談会で、日本企業の資産を現金化した場合、「韓国企業と日本企業との間で数十兆、数百兆ウォン(約数兆から数十兆円)に達するビジネスチャンスが飛んでいくこともあり得る」と述べている。

 実際、自民党外交部会長の佐藤正久議員は、日本企業の資産が現金化された場合、日本の外務省は報復措置を具体的に検討していることを明らかにしている。

 

 三菱重工の再抗告を棄却し、日本企業の資産現金化が進めば、結果的に韓国経済に甚大な被害が及ぶことになるだろう。韓国では元徴用工や元慰安婦の立場が正義だとする風潮はあるが、それが韓国経済にとって実害として跳ね返ってくることは、大法院としても望まないであろうし、そうなれば世論からまた別の批判を浴びかねない。8月19日のタイムリミットに向け大法院は極めて難しい立場に立たされていた。

 こうした時に「免罪符」の役割を果たしたのが、17日の記者会見における尹錫悦大統領の発言だった。「債権者は補償を受ける権利があり、日本が懸念する主権問題の衝突を回避しつつも補償が受けられる方法を模索している」という趣旨の発言だ。大法院としては自分たちがこの大きな決断をするのではなく、大統領が解決策を導いてくれるほうがありがたいと考えていた。尹大統領は、まさに大法院に「逃げ道」を作ってやったと言えるだろう。

 

 だた、今後、大法院が三菱重工の再抗告を破棄する可能性は残っている。韓国の多くのメディアは、特許権売却事件の主審である判事が来月4日に退官することになっているので、それまでに決定を出すのではないかと見ている。

 

 しかし、退官を目前にした判事が敢えて「火中の栗」を拾うだろうか。棄却如何を決定するならば19日までにしていたと考えることもできる。むしろ退官した後まで韓国経済の危機に対する批判を受けたくないと考えたと推測するのが自然ではないだろうか。結局、大法院は何らかの理由をつけ、三菱重工の再抗告に関する判断を下さず、政府による解決策が提示されるのを待つ姿勢に徹するつもりではないだろうか。

 

 いずれにせよ、大法院の決定を望むものは、判断を下すだろうと言い、望まないものはさらに先になるだろうと言っている状況である。

 

困難が予想される元徴用工の説得

 だとしたら、元徴用工らが納得するような落としどころを、韓国政府は見いだせるのか。

 

 産経新聞は、複数の官民協議会参加者の話として、「基金設立案」を最も現実性のある案として検討していると報道している。これは2019年当時の文喜相(ムン・ヒサン)国会議長が提出した法案を土台としたもので、日韓の企業と個人が出した寄付金を財源として徴用工に慰謝料を支払う内容である。

 中央日報は、7月14日開催された2回目の官民協議会で、徴用工側の代理人は「現金化を防ぐための妥協案で代位弁済方案を考慮するなら、戦犯企業は基金に必ず参加しなければならない」「日本政府の謝罪が難しいなら、最低限、日本企業の謝罪を受けなければならない」と主張したという。ただ、尹錫悦大統領の日本への配慮姿勢で状況はより厳しくなっているかもしれない。

 

 いずれにしても解決策の検討にあたっては、元徴用工の説得は避けて通れない。そして元徴用工側は、裁判所の命令による日本企業の資産の現金化実現の見通しが立たない、あるいは遅れるという状況にならないと、どのような案も受け入れないだろう。

 

 そうした意味でも、裁判所が今回決定を先送りしたことは政府側と元徴用工側の対話を促すことにもつながり、解決に向けて一つのステップになったかもしれない。この時間を尹錫悦政権がどのように活用するかによって徴用工問題の行方が決まってくるだろう。

 

韓国が何より望む戦略物資の輸出規制の緩和

 尹錫悦大統領の試みが実を結ぶかどうかに関しては、日本政府が韓国の関係改善の呼びかけに応えてくれるかどうかも大きく影響する。

 

 韓国では、今後の経済運営について懸念が広まっている。特に中国に過度に依存する経済の体質改善が求められているのだ。

 戦略物資に関する日本の輸出規制の強化は、日本から輸出された製品が、韓国から北朝鮮などに再輸出されているとの疑いが濃くなってきたため行われたものである。ただ、中朝に融和的な文在寅政権から、両国に毅然とした姿勢を示す尹錫悦政権に変わった現在、韓国政府はこうした問題にしっかり対応してくれると思われる。つまり日本が態度を転換する好機でもある。まずは戦略物資に対する輸出規制を元に戻すことが、日韓双方の経済にとってメリットになるだろう。

 

 また、尹錫悦大統領は日韓両国が小渕・金大中宣言に立ち戻ることを提起した。前回記事でも記したが、小渕・金大中宣言はこう記された。

<小渕総理大臣は、今世紀の日韓両国関係を回顧し、我が国が過去の一時期韓国国民に対し植民地支配により多大の損害と苦痛を与えたという歴史的事実を謙虚に受けとめ、これに対し、痛切な反省と心からのお詫びを述べた。

 

 金大中大統領は、かかる小渕総理大臣の歴史認識の表明を真摯に受けとめ、これを評価すると同時に、両国が過去の不幸な歴史を乗り越えて和解と善隣友好協力に基づいた未来志向的な関係を発展させるためにお互いに努力することが時代の要請である旨表明した>

 

 ここからも分かるように、韓国が日本の植民地だった時代の損害や苦痛については、小渕総理も反省とお詫びの言葉を述べ、金大中大統領もこれを受け止め、評価した。

 

 ただ、元徴用工団体は、日本政府、日本企業のさらなる謝罪を求めている。これに対し日本は「韓国の謝罪要求はキリがない」と慎重になっている。これが問題をこじらせている根本の問題だ。

 

 だが歴史を振り返れば分かるように、小渕・金大中宣言は日本が東アジア全体でなく、特に韓国に向けなされたものであり、しかも文書によるものである。しかも韓国側の要望に沿ったものだ。文書になっている以上、韓国の人々もその内容を再確認することは容易にできるだろう。尹大統領は、日韓両国はその時点に戻って、信頼関係をもう一度築き上げていこうと言っている。韓国の人々には、その意味をしっかり噛み締めてもらいたい。

 

 一方、日本側も韓国との関係改善にもっと積極的になるべきタイミングではないだろうか。尹錫悦大統領の支持率は低いままである。日本にも何らかの形で、韓国の人々が納得する行動を示してもらわないと政権が持たないであろう。

 反日的な文在寅氏から日韓融和を推し進めようという尹錫悦氏に大統領が変わった。日本もこの機会に韓国への姿勢を転換するべきではないのか。日韓双方ができる範囲でいかに協力するか、政府の知恵と調整力が試されている。

 

 

 

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