韓国が日本の防衛能力に言及、北朝鮮のミサイル迎撃せず
「戦域防衛ミサイル存続せず」とした米専門家を引用
米空母レーガンには爆撃機90機搭載
10月9日未明、北朝鮮が潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)2発を発射した。いずれも日本の排他的経済水域(EEZ)外に落下したとみられる。
長距離弾道ミサイル(ICBM)、短距離弾道ミサイルに次いでいよいよSLBM発射実験である。
北朝鮮の金正恩国家主席の「瀬戸際戦略」は冴えわたっている。日米韓は打つ手がない。
その結果、一つ間違えば、第2次朝鮮戦争勃発にもなりかねない状況が続いている。米中間選挙のある11月6日直前までには核実験に踏み切るかもしれない。
9月、米韓合同演習に参加し、終了後、韓国を離れた米最新鋭空母「ロナルド・レーガン」は踵を返して朝鮮半島に再配備された。
北朝鮮は、長距離、短距離弾道ミサイル発射に次いで9月6日には、北朝鮮軍の戦闘機8機と爆撃機4機が、北朝鮮南部・黄海北道から軍事境界線の北側20~50キロに設定されている「戦術措置線」付近まで接近し示威飛行を行った。
今年5月と8月、朝鮮半島上空に飛来したロシア戦闘爆撃機のプレーブック(戦略マニュアル)をなぞった挑発行為だったと米専門家は指摘している。
これに対抗して米軍戦闘爆撃機「F-16S」が4機、韓国軍戦闘爆撃機「F-15K」が2機発進、慶尚北道鬱陵郡沖合の竹嶼(ちくしょ、韓国名:竹島)を標的に実戦訓練を行った。
北朝鮮の軍事施設を想定した標的に爆弾2発を投下したという。
9月6日には、朝鮮半島東の日本海で韓米日が共同訓練を行った。
米海軍の巡洋艦「チャンセラーズビル 」とミサイル駆逐艦「ベン・フォールド」、韓国のイージス駆逐艦「世宗大王」、日本の海上自衛隊のイージス艦「ちょうかい」が弾道ミサイルに対する防衛訓練を行った。
「スリーピー・ジョー」目覚めたが・・・
大統領がドナルド・トランプ氏だったら、2017年の危機の時のように北朝鮮の軍事基地に「先制攻撃」を仕掛けると脅したかもしれない。
「スリーピー・ジョー」(トランプ前大統領が命名したあだ名=居眠りジョー)ことジョー・バイデン米大統領もやっと朝鮮半島が容易ならざる状況にあることを認識したようだ。
これまでウクライナや台湾情勢、新型コロナウイルス感染症のパンデミックと物価高騰しか報道してこなかった(?)米主流メディアも、朝鮮問題専門家たちの見方を引用しながら、いったい朝鮮半島で何が起こっているのかを詳細に報じ始めた。
米朝鮮問題専門家たちの分析はこうだ。
指摘した問題点は2点ある。
一、今なぜ金正恩氏は秋以降、6回のミサイル発射実験ラッシュに踏み切ったのか。これに対して米国はどう動いたのか。効果はあったか。
二、金正恩氏は次にどう動き、米国はどう対応するのか。
金正恩氏の狙いは、バイデン氏にこちらを向いてもらいたい一心の、危うい軍事戦略だ。
国連決議に基づく経済制裁、それに追い打ちをかける自然災害やパンデミックによる経済活動の停滞、国家財政は破綻状態に近い。
それでもミサイル・核開発にだけは巨額のカネを投じてきた。
(https://www.heritage.org/index/country/northkorea)
国家の存亡は今やミサイル・核開発にあるとの「国是」だ。ちょうど、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領のウクライナ東部州の併合に似ている。
国際社会がいかに非難しようとこればかりは放棄できない、退路を断った「国是」だ。
第一、ミサイルと核がなければ、米国は北朝鮮など鼻にも掛けないはずだ。
対米交渉などまっぴらな金正恩
朝鮮問題専門サイト「38 North」のジェニー・タウン氏はこう指摘する。
「金正恩氏は、トランプ氏とは異なるバイデン氏の控えめな対北朝鮮アプローチにしびれを切らしてきた」
「米中の新冷戦状態に加え、ウクライナ問題をめぐり米ロ関係が緊張したことで2017年の時のように米中ロが国連安保理で一致して対北朝鮮制裁などできなくなってきたこと」
「国連安保理は中ロが拒否権を行使するからこれ以上の制裁措置はできない。ここに目を付けた」
「そして北朝鮮が米国と合意していた対北朝鮮の非核化の国際的な合意が事実上存在しなくなったことが挙げられる。金正恩氏はすでに核開発放棄しない決意を立法化している」
「ミサイル・核開発は北朝鮮の経済をさらに圧迫するが、それもやむを得ないと決意している。その過程で助けてくれるパートナー(中ロ)が現れると思っている」
「ミサイル発射を続ければ、米国とその同盟国は一方的制裁措置を強化し、日米韓が合同軍事演習を強化してくるが、金正恩氏はこれもすべて織り込み済みだ」
トランプ政権で北朝鮮担当特別代表を務めたスティーブン・ビーガン氏は、金正恩氏の本心をこう読み解く。
「金正恩氏はバイデン氏の米朝間の無条件交渉再開の提案を受け入れない構えだ」
「もう交渉などまっぴら、具体的なオファーシートを欲しがっている。北朝鮮は国際情勢の変化を踏まえてつけ上がってきたのだ」
「そのオファーシートには、対北朝鮮経済制裁の緩和、北朝鮮を公式に核保有国であることを認定することが含まれていることは言うまでもない」
保守系シンクタンク、ハドソン研究所のパトリック・クローニン・アジア太平洋安全保障部長は2017年と比較して「良いファクター」と「悪いファクタ―」を挙げている。
「想定外のことをするトランプ氏が大統領でないため、先制攻撃の心配はないこと。これはベター・ファクターだ」
「悪いのは、金正恩氏がミサイル・核開発の許容範囲を広げ、青天井で開発ペースを高めていることだ」
言い換えると、金正恩氏はバイデン大統領の足元を見ている。
北朝鮮に対する風当たりは強くなってきたが、バイデン氏はもとより国務、国防両長官をはじめとするエリート集団は「常識人」すぎるのだろう。
在京米特派員Y氏はこうコメントしている。
「日本で言えば、バイデン氏は安倍晋三ではなく、岸田文雄的なのだ。それに高齢のため何を言っても迫力に欠ける」
核実験再開をすでに中ロに事前通告?
今後、金正恩氏はどう出るのか。
米国際戦略問題研究所(CSIS)のビクター・チャ上級副理事長(朝鮮問題担当)はこう予想する。
「北朝鮮はミサイル・核開発のテンポを加速するだろう。潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、長距離弾道ミサイル(ICBM)、そして5年ぶり7回目の核実験に踏み切るだろう」
あるいはミサイル実験と核実験を同時に実施する可能性すらある。
金正恩氏はすでに、中国の習近平国家主席やロシアのプーチン大統領と、一連のミサイル発射実験や核実験再開について事前通告しているといった憶測もワシントンには流れている。
2019年には極東のウラジオストクでプーチン・金正恩首脳会談が行われた。
2021年、北朝鮮がミサイル実験を再開した直前には習近平氏と金正恩氏は中朝同盟関係を再確認していた。
(https://www.csis.org/analysis/business-usual-north-korea-restarts-ballistic-missile-tests)
中ロへの「事前通告説」が流れた矢先、オンラインでは「金正恩氏が今日、ロシアに到着した」というキャプションをつけたビデオが流れた。
2019年4月、ウラジオストクに到着した時の映像が再生されたものだった。
(https://www.reuters.com/article/factcheck-putinkimjong-oldvideo-idUSL1N314241)
韓国メディアが引用した「シリンシオン」
今回のミサイル発射では、日米韓「三角同盟」強化が目立った。左翼ナショナリストの韓国・文在寅政権下では考えられなかったことが起こっている。
一つ気がかりなのは、日本上空を飛び越えた長距離弾道ミサイルを在日米軍も自衛隊も迎撃しなかった(?)ことだ。
なぜか。韓国メディがその理由を以下のように「分析」している。
一、日本列島上で最高高度に到達する北の中距離弾道ミサイルを迎撃できるミサイル防衛システムはないからだ*1。
9月4日に北朝鮮が撃ったミサイルは、日本列島付近で最も高い970キロまで上昇した。米国の軍事専門家ジョー・シリンシオーニ*2氏は「それほどの高さまで届く戦域(theatre)防衛ミサイルは存在しない」と語った。
二、2017年に北朝鮮がミサイルを発射した時、赤道上の静止軌道にある米国の赤外線早期警戒衛星がわずか数秒で捕捉した。
その後、迎撃ミサイル「SM3」を搭載した東海(日本海)海上の日本のイージス艦3隻がこのミサイルの軌道を追跡した。
しかし当時、日本上空で最高高度に到達する北のミサイルは、日本のイージス艦が搭載するSM3シリーズの最高高度(500キロ)を上回っていた。
三、イージス艦に搭載されるスタンダードミサイル(SM3・SM6)は、弾道弾の中間段階および終末段階を狙う。
したがってスタンダードミサイルの次の防衛段階である、大気圏内に再突入する弾道弾を迎撃するTHAAD(高高度防衛ミサイル。最高高度150キロ)や最終段階で迎撃するパトリオットミサイル(PAC3、20キロ)は、こうした場合には無用の存在だ。
日本にTHAADミサイルは配備されていない。
四、2017年、菅義偉首相(当時)は「日本に対する被害が予想されないので迎撃を試みなかった」と発表した。
基本的に迎撃できないのだ。イージス艦が迎撃を試みて失敗した場合、その影響は甚大だ。
五、もし日本が迎撃に成功したとしても、衝突によって宇宙空間に発生する多数の破片は、最終的に低軌道を回る数多くの衛星や国際宇宙ステーション(ISS)の稼働を脅かす新たな要素となる。
また国際法上、領空とは高度80.5キロ(米国の主張)から100キロまでだ。それよりも上の数百キロは領空ではなく宇宙だ。
*1=日本の軍事専門家から「北朝鮮の中距離弾道ミサイルは水平距離4600キロを飛び、弾道頂点(最高高度100キロ)は日本列島を通り過ぎていた」との指摘あり。また弾道飛行は衛星軌道に乗っていないため、迎撃に成功しても破片はスペースデブリにはならないとの指摘もあった。
*2=シリンシオーニ氏は核拡散防止推進機関「プラウシェア財団」理事長。下院軍事委員会上級スタッフを務めたこともある。
(https://en.wikipedia.org/wiki/Joseph_Cirincione)
参考:列島越えた北の弾道ミサイルに怒る日本…迎撃しなかったのか、できなかったのか
(https://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2022/10/05/2022100580040.html)
そういう韓国も9月4日には、北朝鮮のミサイルの迎撃訓練をしていた(?)韓国軍が江陵にある韓国軍基地から日本海上の特定の座標を狙って発射したミサイル「玄武2C」が正常に飛行せず、後方に飛び、基地内で落下・炎上してしまった。
上記の韓国メディアの「分析」が事実に基づいたものかどうか。日本の専門家の的確なご意見を伺いたい。韓国メディアに対する冷静な反論も期待したい。
米政府機関はこの件については一切触れていない。米メディアも報じていない。
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