北韓, 南北關係

前例なき「1月発射」から見る北朝鮮の意図

이강기 2022. 2. 15. 19:19

 

前例なき「1月発射」から見る北朝鮮の意図

 
 
伊藤俊行, 編集委員
讀賣新聞, 2022/02/10
 

 

 定説に従えば、脅威の度合いは「能力×意図」で測られる。 2022年に入って北朝鮮は弾道ミサイルを6度、巡航ミサイルを1度発射した。北朝鮮のミサイルの能力は、着実に向上していると見られる。難物は意図の方だ。


 というのも、北朝鮮はこれまで、少なくとも日本、米国、韓国が把握している限り、1月にミサイル発射実験を行ったことがないからだ。


 人や組織が前例のないことを行う時、追い詰められて局面打開を図る場合もあれば、自信をもって新たな段階に踏み出す場合もある。 初の1月発射に、なにか特別な意味はあるのだろうか。

 

しぶしぶ認めた「極超音速」

 新年1発目の発射は、1月5日だった。


 北朝鮮の労働新聞は、国防科学院が迎撃困難な「極超音速ミサイル」の試験発射を実施したと報じた。


 これに対して韓国の聯合ニュースは韓国軍当局の見解として「速度はマッハ6水準、高度は50キロメートル以下、飛翔距離も北朝鮮が主張する700キロメートルには達していない」として、「性能が誇張された一般的な弾道ミサイル」との見方を示した。

ソウルの駅で、テレビに映し出された北朝鮮のミサイル発射を報じるニュース映像(1月12日)=AP

 

 ところが、1月11日に発射された弾道ミサイルはマッハ10前後の速度で飛翔したことが確認され、韓国も「極超音速ミサイル」と認めざるを得なかった。


 1月14日に発射された弾道ミサイルは、21年9月に初めて行われた鉄道軌道上の列車からの発射だった。


 山間部の多い北朝鮮国内に張り巡らされた鉄道網は総延長が3000キロメートルを超えると言われ、韓国の鉄道網よりも長い。


 山が多い分、トンネルも多い。


 ミサイル搭載列車を隠すのには好都合で、日米韓にとっては、その場所を見つけ出すことはおろか、発射兆候をつかむことも難しい。


 液体燃料を使うミサイルなら、燃料運搬の動きである程度、発射の兆候をつかむことができるとされるが、この点も、22年に入って4度目となる1月17日の弾道ミサイル発射実験では、液体燃料に比べて運搬や準備が容易ながら技術面では扱いが難しい点の多い固体燃料を使ったと見られることから、簡単な話ではなさそうだ。


 その後、北朝鮮は1月25日に長距離巡航ミサイル、27日に「弾頭の威力確認のための戦術誘導弾2発」(朝鮮中央通信)を発射し、目標に正確に命中したとしている。


 1月30日には、中距離弾道ミサイルを、高角度のロフテッド軌道で発射した。


 防衛省の推定では、最高高度は約2000キロメートルに達し、約30分間にわたって約800キロメートルを飛翔した。


 射程には、米軍基地のある米領グアム島も含まれている。


 日米韓3か国は、今後、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験が行われることを警戒している。

 

バイデン政権の関心を引く狙い

 以前は撃たなかった月に集中的な発射を行った北朝鮮の意図に関する一つの解説は、米国のジョー・バイデン大統領の就任1年というタイミングを狙ったというものだ。


 バイデン政権の外交・安全保障政策で、北朝鮮の核・ミサイル問題に関する優先順位が低いことは、衆目の一致するところだ。


 11月の中間選挙に向けて経済、内政で有権者から「及第点」をもらわなければならないバイデン政権は、インフレの影響への警戒や、連邦議会で与党の民主党の足並みがしばしば乱れることへの対応に忙殺されている。


 外交・安全保障分野では、ロシアによるウクライナ侵攻への懸念が高まり、中国との対立状況も改善の兆しがないから、北朝鮮がどう跳ねようとも、相手をしている余裕はないというのが正直なところだろう。

米大統領選の討論会で議論するトランプ氏とバイデン氏(2020年10月、テネシー州ナッシュビルのベルモント大学)=AP

 

 加えて、共和党のドナルド・トランプ前大統領が進めた対北朝鮮政策を否定したいという意識も、バイデン政権の姿勢の底流にあると見られる。


 米国では政権が代わると「ABC=Anything But Clinton(クリントン政権がやらなかったことは何でもやる)」「ABB=Anything But Bush(ブッシュ政権がやらなかったことは何でもやる)」といった言葉が飛び交うように、前政権を否定する傾向が、近年、とみに強くなっている。


 バイデン政権にとっては、「ABT=Anything But Trump」といったところだろうか。


 それでも、かつての米国では、外交・安全保障政策は政権交代にかかわらず継続性が重視される伝統があった。


 ワシントンのエリート政治を否定したトランプ政権は、そうした伝統すら嫌い、自由貿易の枠組みである環太平洋経済連携協定(TPP)や地球温暖化に関するパリ協定から脱退するなど、外交・安全保障政策の一貫性を壊してしまった。


 対北朝鮮政策について言えば、トランプ氏は金正恩朝鮮労働党総書記とのトップ会談に踏み切ることで、前任者のバラク・オバマ元大統領が採用した政策を全否定した。


 北朝鮮が非核化に向けた具体的行動をとらなければ対話に応じないとする「戦略的忍耐」を掲げたオバマ政権の副大統領だったバイデン大統領が、トランプ氏のようなトップ会談に興味を示さないのも、余裕がないこともさることながら、トランプ外交の継承に基本的には否定的だからだ。


 バイデン政権の問題は、トランプ外交を否定するだけでなく、「戦略的忍耐」にも向かわないと明言しながら、いまだに北朝鮮を話し合いのテーブルに着かせる具体的な動きを見せていないことだ。


 そんな米国の態度に、金正恩政権がいらだちだけでなく、不安を募らせている可能性は高い。


 その意味では、バイデン大統領の気を引くための瀬戸際戦術をエスカレートさせたのが1月のミサイル集中発射だとする解説は、筋が通っている。


 ただ、これでは、「1月に撃った理由」の説明にはなっていても、「なぜ、これまでは1月に撃たなかったのか」という疑問は解消されない。

 

気象条件の悪い時期の発射強行

 1月に撃たなかった理由にも答え、より説得力があり、かつ懸念される説明としては、「北朝鮮のミサイル技術が飛躍的に向上し、気象条件の悪い1月を含め、いつでも、どこでも、いくらでも発射できるようになった」というものがある。


 もともと北朝鮮の冬は、ミサイル発射を行ううえでの自然条件が厳しいとされてきた。


 1月に撃たなかったのではなく、1月には撃てなかったということだ。


 そうであったとしても、22年は北朝鮮にとって重要な節目の年であり、1月に内外に向けて華々しいパフォーマンスをしなければならない事情がある。


 2月16日は、金正恩氏の父、金正日総書記の誕生80年にあたる。


 4月11日には、金正恩氏が朝鮮労働党のトップに正式に就任してから10年となる。


 4月15日は、祖父で建国のリーダーだった金日成主席の生誕110年を祝うことになる。


 記念すべき年に、祖父から父、父から子へと受け継がれた核武装による「生き残り戦略」の宿願が完成に近づきつつあることをアピールしたい。

街頭で配られた「北朝鮮が核実験」の読売新聞号外(2013年2月、東京・港区のJR新橋駅前で)

 

 そのためには、最初の記念日である2月16日より前に、弾道ミサイルの1発や2発ではなく、バラエティーに富むミサイルや発射方法を見せたかったのではないか。


 金正恩政権は過去、1月に核実験を行ったことはある。


 16年1月6日に行われた、「水爆級」と自称する核実験だ。


 13年にも、父の生誕記念日を前にした2月12日に核実験を行ったことがあることを考えると、冬の気象条件に左右されるミサイル発射より、17年以来となる核実験を選択する可能性もあったはずだ。


 この点は、瀬戸際戦術としては最強のカードを真っ先に切ってしまうデメリットや、国際社会のより強い反発を受けることを考慮して、ミサイル発射を優先したと考えることもできそうだ。


 しかも、これまで支障が多いと見られてきた1月の発射を実行することによって、自然条件などの制約を超える技術の発展を遂げたとアピールすることもできる。


 そんな意図とメッセージが1月の集中発射の背後にあったとすれば、これまでと同じ瀬戸際戦術として対応するだけでは不十分と見た方がいい。

金正恩政権の弾道弾発射は100回超

 このところの北朝鮮のミサイル技術の急速な向上には、日本政府関係者も目を見張る。


 ロシアなど他国による技術支援や部品供与があるとする見方が根強くある一方で、日本政府の当局者の間では、北朝鮮が自力で新型ミサイルの開発や性能の向上を進めているとの分析が大勢になりつつある。


 金正日政権の17年間で北朝鮮の弾道ミサイル発射は計16回、核実験は2度だった。


 これと比べ、後継の金正恩氏のもとでは10年余で、核実験が4度、弾道ミサイルもしくは弾道ミサイルであることが疑われるものは、この1月17日の発射が100回目と、数も頻度も増している。


 ミサイルの性能は、「長射程化」「同時発射」「秘匿性と即時性の向上」「変則軌道」の各面で上がっている。


 北朝鮮が独力で技術を伸ばすきっかけになった出来事として日本政府関係者が指摘するのが、12年4月13日の弾道ミサイル発射実験だ。


 「人工衛星打ち上げ」と称された実験は、「金日成生誕100年」を祝う目的もあり、外国の報道陣や日本からの訪朝団にも公開された。


 それが、失敗に終わった。


 衆人環視の中での失敗は金正恩氏の面目を潰したと受け止められ、それ以前の北朝鮮の独裁体制の歴史からみて、「ミサイル開発技術者は粛清されるだろう」とする見方が広がった。


 そんな予想に反して、北朝鮮は発射失敗の事実を公表しただけでなく、金正恩氏が科学者、技術者たちをねぎらい、次の実験に向けて努力するよう励ましたとされる。


 これを耳にした日本政府関係者は、「これはまずい」と感じたという。


 「政敵に対する粛清をためらわない金王朝にあって、核やミサイルの開発を進める科学者たちは手厚く保護し、支援するというメッセージが明確だったから」で、2年後の2014年には、北朝鮮は初めて年間10回を超える弾道ミサイル実験を行うところまで技術を上げ、ならず者ぶりを強めた。