北韓, 南北關係

北朝鮮外交部門「奥の院」に新女帝、金与正ラインから崔善姫ラインへ

이강기 2022. 6. 12. 21:34

北朝鮮外交部門「奥の院」に新女帝、金与正ラインから崔善姫ラインへ

東アジア「深層取材ノート

 
 

JB Press, 2022.6.12(日)

 

2018年9月19日、平壌で開催された韓国の文在寅大統領との間で開かれた南北首脳会談後、平壌共同宣言に署名する金正恩総書記と、それをサポートする妹の金与正氏(写真:代表撮影/Pyeongyang Press Corps/Lee Jae-Won/アフロ)

 

 

  北朝鮮に、「新女帝」の誕生である

 

 6月11日付朝鮮労働党中央委員会機関紙『労働新聞』は、6月8日から10日まで金正恩(キム・ジョンウン)総書記が招集し、平壌で開かれていた朝鮮労働党中央委員会第8期第5回全員会議拡大会議の「公報」(コミュニケ)を発表した。

 その中で、最も目を引いたのが、次のくだりだった。

 

<党中央委員会政治局候補委員 チョ・チュンリョン同志、パク・スイプ同志、リ・チャンデ同志、チェ・ソンヒ同志、ハン・グアンサン同志>

「公報」に写真入りで紹介された計21人の新幹部の中で、チェ・ソンヒ(崔善姫)同志が紅一点として加わった。さらにその顔写真に付けられた肩書きには、「外務相」と明記されていた。

 すなわちチェ・ソンヒ氏は、新たに党中央政治局候補委員に選出されたと同時に、外務大臣にも任命されたのである。

 

外交官たちよりも偉そうな通訳

 チェ・ソンヒ新外相は、1964年に孤児として生まれたが、崔永林(チェ・ヨンリム)首相の養子として育てられた。1976年に、英語と中国語を学ぶため、北京55中学、北京外国語大学付属中学に留学、1980年に帰国した。その後、オーストリアやマルタに留学した。

 帰国後の1988年に、外交部(現・外務省)に入部した。90年代には、朝鮮労働党幹部のハン・ヨンクォン氏と結婚した。

 

 彼女が表舞台に登場したのは、北朝鮮の核開発問題を話し合うため、2003年に北京で始まった6者会談(日本・アメリカ・韓国・北朝鮮・中国・ロシア)の北朝鮮代表団に、英語通訳として加わった時だった。

 

私は当時、日本外務省から参加していたある外交官から、こんな興味深い話を聞いたものだ。

 

「北朝鮮代表団を見ていて、不思議なことがあった。前面に座る外交官たちよりも、後方で英語に通訳する女性の方が偉そうにしているのだ。何だあの謎の女性は、という話で持ちきりだった」

 

金正恩氏の英語の家庭教師だったとの説も

 

 一説によると、外務省北米局副局長に昇進した2010年頃、金正恩総書記の英語の家庭教師を務めていたという。金正恩氏が後継者となって5年後の2016年に、北米局長に就き、2018年に副大臣となった。

 

 チェ・ソンヒ副大臣に厚い信頼を置いていた金正恩総書記は、「世紀の会談」と呼ばれた2018年6月12日の米朝首脳会談で、実質上の実務責任者を任せた。

 

                                           北朝鮮外相への昇格が決まった崔善姫氏=2019年3月、ハノイ(AFP時事)

 

 当時、私もシンガポールで取材したが、ドナルド・トランプ大統領と金正恩総書記の「12秒間の握手」を演出したのは、マイク・ポンペオ国務長官と、チェ・ソンヒ外務副大臣だった。それほど彼女は圧倒的な存在感を放っていて、彼女が姿を見せると、北朝鮮関係者たちに緊張感が走った。

 

 2019年2月27日、28日にハノイで行われた2回目のトランプ・金正恩会談でも、北朝鮮側を仕切っていたのは彼女だった。だがこの会談は、周知のように「ノーディール」で、「世紀の決裂」と報じられた。

 

  チェ・ソンヒ副大臣は決裂の翌日にハノイで会見を開き、「国務委員長(金正恩)同志がこれからの朝米交渉について、少し意欲を失ったのではないかという印象を受けた」と、大胆な発言をした。この時、横に座っていた李容浩(リ・ヨンホ)外相が引きつった表情を見せたのが印象的だった。

 

対米外交の二つのライン

 

 北朝鮮側は「ハノイの決裂」について総括したが、中国のある北朝鮮ウォッチャーは私に、こう語った。

 

「北朝鮮の対米外交は、『表看板』は金英徹(キム・ヨンチョル)統一戦線部長-金赫哲(キム・ヒョクチョル)対米特別代表だったが、『裏看板』は二つのラインがあった。すなわち、金正恩-チェ・ソンヒ副外相というラインと、(金正恩総書記の妹)金与正(キム・ヨジョン)-李容浩外相というラインだ。

 

『ハノイの決裂』の後、この二つのラインで闘争があり、勝利したのはチェ・ソンヒだった。彼女は4月11日に開かれた最高人民会議で、外務省第一副大臣に昇格。かつ国権の最高行政機関である国務委員会議の委員にも選ばれた。

 

 一方、金与正は党中央政治局員候補を解任された、金英徹部長と金赫哲代表は引退、李容浩外相は国務委員会議委員を解任されてお飾りと化した」

 

勝利、失脚、そして復権

 だが、金与正氏が同年12月に、党第一副部長として復権を果たしたことで、潮目が変わった。与正氏は2020年1月、朝鮮人民軍出身で、かつて祖国平和統一委員会北朝鮮首席代表などを歴任した金善権(キム・ソンクォン)を外相に抜擢した。

 

 対米交渉が停滞していたこともあり、金与正-金善権ラインによるチェ・ソンヒ潰しの画策が本格化していく。いつしかチェ・ソンヒ氏は、表舞台から消えた。前出の中国の北朝鮮ウォッチャーが続ける。

「チェ・ソンヒは2020年夏から秋にかけて、外務省の職をいったん解かれて、再教育施設(革命家区域)送りとなった。おそらく彼女にとっては、人生最大の屈辱だったことだろう。

 

 金正恩総書記の『恩情』によって、3カ月ほどで強制施設から出してもらえた。だが、2021年1月に開催された第8回朝鮮労働党大会では、党中央政治局候補委員から解任された」

 

 

 それでも、チェ・ソンヒ氏は今年に入って、復権を果たしていく。再び金正恩総書記のバックボーンを得て、ついに「宿敵」の金善権外相を蹴落とし、自らが外相に就任したのである。中国の北朝鮮ウォッチャーが続ける。

 

「チェ・ソンヒの外相就任には、二つのメッセージが込められている。一つは、ジョー・バイデン政権になってすっかり停滞している対米交渉を、北朝鮮側が本気で取り組む用意があるということ。もう一つは、『平壌奥の院』の権力構造において、再び金与正の発言力が弱まっていくということだ」

 

 北朝鮮外交は、窮地を脱していけるのか。「新女帝」の手腕が問われる。